先日より、お知らせしている葛利毛織さんで生地をつくってもらったこと。
今回、葛利毛織さんのおかげで、僕自身が追い求める、とても特別な生地をつくってもらいました。
以前のブログで書いたけど、そもそも僕がその繊維を知ったのは、今回一緒に葛利毛織さんに行ったブランドのデザイナーがきっかけ。
そのブランドでも、その繊維は、あまりのハードルの高さからコレクションで使うことができなかったもの。
ただ、その存在を知った僕は、途轍もなく魅力を感じ、今にもその魅力に惹き込まれていきそうだったけど、当時の自分には、あまりにもレベルの高過ぎる存在に感じていた。
今じゃない。と。
というか、今は絶対無理。って感じだった。
ある意味、その繊維は、憧れのような存在だった。
ただ、年月は過ぎ、いつまで経っても僕の頭の中から、その繊維の存在は消えることがなかったし、そのブランドとの協業であれば、手にして頂いた方々に、とても感動してもらえる洋服を必ずつくることができると信じていた。
その繊維。
"フェレイラ・モヘア"。
オーストラリアのニューサウスウェールズ州。
そこにフェレイラ兄弟が経営する、"フェレイラ牧場"が存在する。
そもそも、"モヘア"という繊維は、"アンゴラ山羊"が原毛となります。
今の世の中に存在する、"モヘア繊維"というのは、ニット用のウールナイロン混のような甘いものの流通がほとんどだと思う。
意匠を凝らしたもので、モヘア100のニットというのも存在するが、ほとんどが混紡。
先日、当店で販売したMOTHER HAND artisanのシルクモヘアのニットは、永井さんの"意図が凝縮された糸"だった。
梳毛でもウール混のものが中心的だし、モヘア100という梳毛の生地でも、"風通しが良い"春夏向きの生地がほとんどだと思う。
梳毛モヘア = 春夏 みたいなイメージ。
それは、モヘア繊維そのものが"太くて強靭"だから、隙間のある密度の甘い生地に織っても成り立つということがある。
しかし、その反面では、繊維の特性上、密度を高く織り上げるのが困難ということもあるんですよ。
だから、そもそも高密度なものは織れないという側面がある。
それは、モヘアがとても"滑る繊維"であるから。
全ての動物繊維には、人間の髪の毛のキューティクル同様に、"スケール"というウロコのようなものが存在する。
その"ウロコがたくさんあるもの" と "ウロコが全然ないもの" この2つを比べたとき、"どちらの表面が滑らかなのか"と考えると、、、 "ウロコが全然ないもの"の方が、滑らかじゃないですか。
モヘアは、ウロコ = スケールがとても少なく、平滑な繊維という特性があるの。
だから、織り生地をつくる時に、糸と糸が滑ってしまい、密度を高く織ることがとても難しいという特性を持つワケ。
それによって、春夏向きのモヘア100の織り生地ばかりを目にするようになっているのだ。
以上のことをよく頭に入れておいてください。
そして、話をフェレイラに戻します。
モヘアの原毛となる、"アンゴラ山羊"。
アンゴラ山羊の世界の主要地域は、 南アフリカ・アメリカ・トルコ・アルゼンチンなどがある。
その中でも、アンゴラ山羊を飼育する牧場は、2つに分かれるそうです。
・スタッドファーム
・フロックファーム
の2つに分かれ、どちらも全く違う性質を持つものだそうです。
・スタッドファームとは、 "アンゴラ山羊の品質改善と種の提供を主目的とする牧場。"
・フロックファームとは、 "種の提供を受けて生産を主目的とする牧場。"
このように2つに分けられた時、世界のほとんどがフロックファームであるということは、誰もが想像に容易いと思います。
しかしながら、フェレイラ牧場は、特に品質を重んじる"スタッドファーム"を経営されているのだそうです。
これまでは、世界の最大産地である南アフリカで毎年最高品質のトロフィーを取り続けてきた牧場だそう。
でも、フェレイラ兄弟は、更なるモヘア品質の高みを求め、数千頭の優秀なアンゴラ山羊を選定し、南アフリカの牧場から、オーストラリアのニューサウスウェールズ州に移転したのだそう。
そして、その後、アンゴラ山羊の飼育に適した地域で現地の大学との共同で、アンゴラ山羊の一頭一頭のDNAをチェックしたり、毎日毎日の気象条件に合わせて飼育管理をするなど、とても地道な研究を何年も行ってきたのだそうです。
そうして、フェレイラ牧場で飼育されたアンゴラ山羊は、"世界最高品質"と認められるようになり、一般的なモヘアとは桁違いなモヘア素材を生み出すことを可能にした牧場です。
だから、フェレイラ牧場で飼育されたアンゴラ山羊から採取された原毛には、"フェレイラ・モヘア"という称号が付くのだそう。
その"フェレイラ・モヘア"は、それまでのモヘア繊維の常識を、大きく、大きく覆す品質と言われてる。
モヘアにも、ウールや、アルパカなどと同様に、"繊維の細さ"="繊度"によって品質のランクが決定付けられる。
人間の髪の毛は、成人で約80ミクロン。
通常のモヘアは、大体、人間の半分の約37ミクロン前後。
中でも上質と言われる生後1年以内のキッドモヘアは、25ミクロン〜27ミクロンと言われる。
しかし、フェレイラ牧場で生産される、キッドモヘアは、19〜22ミクロンという数値を実現した。
その上、モヘアは、ウールや他の獣毛と比較しても、繊維が長いという特徴を持つ。
そして、先述の通り、スケールがとても滑らか。
そのような"フェレイラ・モヘア"を日本で唯一、愛知県の葛利毛織さんが生地にすることを許されているというワケ。
その葛利さんが使うフェレイラ・モヘアが、 "フェレイラ・モヘアの中でもキッドモヘア"
更に、
"キッドモヘアの中でも、一番の品質のものだけ"だそう。
ヤバヤバの激ヤバ。
これは、原料の話。
更に、ここから、紡績へ。
紡績とは、繊維を糸に紡ぐこと。
そのフェレイラ・モヘアで生産された原毛を紡績するのは、イタリアの"Suedwolle Group Italia S.p.A"という紡績会社。
これは、、、 読めない。
ただ、もともとは、Safilという紡績会社で、長く歴史があり、イタリアの紡績会社の中でも、常に革新と進化を続ける世界の紡績界のリーディングカンパニーだそう。
特に、モヘアは紡績が難しい素材で、非常に経験とノウハウを必要とする特殊な繊維なのだそうです。
その会社が培ってきた経験値を元に、更に、進化を遂げ、"世界最高品質の糸"をつくるために、超特殊なモヘア専用の紡績機を導入し、その紡績機でフェレイラ・モヘアを紡績しているそう。
この"フェレイラ牧場"と"Safil"が手を組む前には、そのものが太い繊維であるモヘアのため、太い糸しか世界に流通していなかったそうです。
しかし、両者の協業により、それ以前には存在しなかった"モヘア糸"が誕生。
今回も、その糸を使用しています。
"64番手双糸" これははっきり言って、僕には太いのか、細いのかが分からないけど、葛利毛織さんの葛谷さんが言われるには、モヘア100%では、世界で他にない細番手で、比べるものがないほどの品質だそうです。
僕が、その"フェレイラ・モヘア"という繊維、"2/64の糸"と対面したのが、今年、2022年に入ったすぐのこと。
もう、話には聞いていたけど、原毛の輝き、手触り、オーラ、その全てが別格に違った。
それがこれ。
フツーに写真に撮ると、室内でも、白く飛んで写り込んでしまいそうなほどの輝き。
通常のモヘア原毛と並べると、見た目、柔らかさ、しなやかさ、滑らかさが全くの別物。
これは、"どうしても自分の手で紹介して、皆様に見てもらいたい"。
"世界には、本当に驚きと感動が溢れてる"。
心の底から、そう思ったの。
そして、その"フェレイラ・モヘア100%"の"2/64の糸"で生地をつくってもらうことにしました。
葛利毛織さんに行ったその場で、フェレイラモヘアでの生産をお願いした。
これは、自分で言うのもアレだけど、もちろん、セレクトショップでは、初めてのことだそうです。
ただ、 そこからが大変だった。
まあ、僕じゃなくて、葛利毛織さんがだけど。
先述した通り、モヘア100の生地(織り生地)って、春夏用のイメージじゃないですか。
その理由も先ほど書いた通りなんだけど。
だけど、今は、季節は冬。
もともと、この時期を目指してた。
だから、春夏用の風通しに秀でた生地をつくっても、今着ることはできないじゃないですか。
それに、葛利毛織さんで製織した"フェレイラ・モヘア"の生地は、オーダーメイド用のスーツ市場で、スペシャル生地として既に流通している。
僕が理想として、目指していたものは、そういうものじゃないの。
世の中には、服が溢れているし、当店でもコレクションの仕入れはしてるから、そんな中でも、わざわざ"生み出す価値"があるものをつくってもらいたかった。
だから、"誰もが出会ったことがない"生地を目指しました。
でも、それが超絶困難なハードルだった。
まず、葛利毛織さんに、僕の頭の中にあるものを明確に伝えるために、 "生地の組織" と "目付け"という、生地の重さを測る数値を話しました。
ただ、すぐに、とてもハードルが高いということを言われた。
僕が伝えた、"生地の組織"と"目付け"。
「"平織り"で"500以上"でつくってもらいたいです。」
と伝えた。
平織りというのは、僕が毛織物の平織りがすごく好きだからだ。
それは、今までもこのブログで書いてきた。
目付け500以上というのは、冬場のヘビーアウターの数値だ。
そう。
超難しいの。
フツーに考えて。
だって、原毛のモヘアは、フェレイラ・モヘア以外には存在しない繊維の細さだし、それでいて、モヘア界の最高品質。
繊維は細いし、あまりにも滑らかで上質過ぎる生地ゆえに、そのような組織で、そこまでの数値のものはつくったことがない。と言われた。
でも、葛利毛織の葛谷さんは、そういう僕の理想とする生地を「とても難しい」とは言われたけど、、、 「すごくやってみる価値がある」と言って下さった。
今、生地が完成し、皆様にもうすぐお披露目できる時がすぐそばにある状況で、こうして思い出しながら書いていると、とても泣きそうだ。笑
日本が誇る超名門の機屋さんが、地方のセレクトショップのお願いを引き受けてくれたのだ。
それも、日本で唯一、フェレイラ・モヘアを扱うことができる機屋さんが、これまでにつくった試しがないものにトライしてくれた。
その時、一緒に行ったブランドのデザイナー経由で、その後の葛利毛織さんの生産状況を随時聞いていたのだが、「もの凄く苦戦している」という知らせを何度も受けていた。
しかし、進んでいるというのも聞いていた。 月日は流れ、夏のある日。
サンプルが完成した。と知らせを受けた。
そして、葛利毛織さんから、見本となる生地が到着した。。。
むちゃくちゃに良い生地だった。
これまでに触ったことがないほどの滑らかさ、平織りならではの反発力、自然なツヤで、誰がどこをどう見ても、一瞬で上質な生地と感じてもらえるもの。
ただ、唯一、足りないことがあった。 "目付け"だ。
この時のことを僕はとてもよく覚えている。
職人さんとも直接電話で話をしたが、これがこの組織では"限界"と言われた。
"限界" あまりにも原料が上質であるために、織る段階で糸が織機の中で滑ってしまい、密度を高めることができない。
その上、2/64というモヘアでは、あり得ないほどの細番手であるゆえに、目付けを高めようとしても、現状では困難だということだった。
ただ、そこから、自分なりに思うことを、考えることをお伝えした。
それをデザイナーを通してでも伝えてもらったの。
その後、職人さんが、、、
「もう一回プレゼンさせてくれ。」 と言ってきてくれた。
心震える。
魂の言葉だ。
そうして、待つこと、更に数ヶ月。
遂に、晴れて完成した。
当店CASANOVA&COが葛利毛織さんに織ってもらった特別な生地。
それが、これ。
生地組織がとてもくっきりと、はっきりと立った生地。
そして、フェレイラ・モヘア100%ならではの圧巻の滑らかさとツヤを持つ生地。
これは、誰が見ても実物の凄まじさを瞬時に感じてもらえると確信しています。
葛利毛織さんの葛谷さんは、 「これまでに見たことのない、極まったものができた」 と言っていた生地。
マジで、ガチで、ウルトラハイパー魂が震える生地だ。
今回の生地は、 糸は、2/64というもの。
ただ、目付けを高めるために、経糸と緯糸を 64番手双糸と64番手双糸を撚り合わせた糸。
4 PLY。
つまり、2/64 × 2/64の4本の糸で構成をしてくれた。
更には、目付けを高めるために、"斜子織り(ななこおり)"という"変形平織り組織"。
これは、通常、平織りが"経糸と緯糸が一本ずつ交互"に浮き沈みするのに対して、、、
その倍。
"二本ずつが交互"に浮き沈みする組織です。
その上、"経糸が二重織り"という設計。
つまり、
"経二重平変形組織" = "マットダブルクロス"
という生地を開発してくれた。
僕の理想としてお願いしていた、 "平織り"と"目付け"。
平織りは、"平変形組織"という形で。
目付けは、"581g"という驚愕の数値で実現してくれました。
そもそも、なぜ平織りが良かったのかというと、平織りにすることにより、モヘアにそもそも備わる、繊維の弾力をサイキョーに活かしたかったから。
そして、"目付け"というのは、毛織物というのは、1mの重さで算出されるものです。
毛織物の生地幅は、大体が150cmか155cmとなる。
今回のマットダブルクロスは、150cm幅です。
1m × 150cmの重さが、581g。
でも、1mで洋服なんて、ちょっと大きめのトランクスくらいしかできないから、2mや多いもので3m以上使う。
単純に考えて、一着の重さが考えられると思う。
そして、1mあたりの生地プライスもハンパないことになっちゃった。笑
僕が日頃からよく話をさせてもらう、いろんなブランドのデザイナーに今回の話をしていたのですが、デザイナーの方々は、そのメーター単価をとても驚いてた。笑
ただ、スーツ市場では特別な生地として国内でも流通する"フェレイラ・モヘア"ですが、それは全て目付けが300g前後。
葛谷さんが言われるには、通常のモヘアでは考えられない細さの原料だから、それを"そのまま活かす"ために繊細な生地にすることを普段から考えていたそうです。
しかし、そうではなく、今回の生地は、、、
"世界一のモヘア繊維" を "超絶ウェイトに織ってもらった" というもの。
ただ、、
単に目付けを重くしただけではなくて、 このような超上質原料を、このような設計にしてもらったため、 "圧倒的な恩恵"を皆様にお届け致します。
経糸は、先述の通り2/64×2/64の4本。
カラーリングは、深いネイビー。
緯糸も、経糸同様に2/64×2/64の4本。
カラーリングは、ブラウン。
4PLYですが、双糸×双糸のことを"コード撚り"という。
そして、色合いの組み合わせは、100年以上の歴史の中で葛利毛織さんの最も象徴的なカラーリングであり、経糸と緯糸の色がエゲツない奥行きを見せるもので設計しています。
これは実物見た時に、度肝を抜いて。
前回のブログで書いた、"綜絖通し"のための経糸本数は、4320本。
しかしながら、双糸と双糸の"コード撚り"によるものだから、総経糸本数は、"8640本"というかなり多い設計です。
細くて長い超原料ということもあり、しなやかで、驚愕の光沢がある。
そして、途轍もなく、滑らか。
ただ、そこに"コード撚りのダブルクロスの斜子織り"が加わることで、圧巻の反発力が出てる。
この宇宙レベルの反発性は、人類の歴史に刻まれて欲しいと願ってる。
これは、このブログを見てくれている、皆様、全員が、絶対にこれまでに見たことがない生地が出来上がっていると思います。
超感動のシロモノです。
そして、これ。
マイクロスコープ。
もはや、肉眼でも見える鬼のような組織なんですが、糸の密度、締まり、毛羽の少なさがハンパない。
経と緯、それぞれが4本の糸で構成されてるのは、さっき書いた通り。
マイクロスコープの写真で、一本の糸に見えるのが、"コード撚りの4本の糸"です。
そして、"斜子織り"ということもあり、一つの組織で、単子換算で合計8本の糸がそれぞれ交互に露出するという、ウルトラ設計。
これは、葛利毛織さんがとにかく苦戦しながら、これまでにない挑戦をしてくれた。
どうしても、とにかくハードルが高い生地だったこともあり、ものすごい高い技術を持つ葛利毛織さんでも、整理加工後に、思いもよらぬ織り傷がたくさんあったそうです。
とても時間をかけて向き合ってくれたのですが、それでも全てが簡単には行かなかった。
更に、拡大すると、もはや"綱引きの綱"のようにまで見えるような糸。
糸の設計では、紡績は通常"Z撚り"なので、双糸にするときには、フェレイラ・モヘアの膨らみを出すために、"S撚り"での撚り合わせ。
最後に、"コード撚り"にするときには、反対に、全体を締めるために"Z撚り"。
そうすることで、重厚な生地ながら、フェレイラ・モヘアの素材のポテンシャルを最大限に活かすように設計をしてくれている。
とにかく毛羽も少なく、マイクロスコープでどこをどう見ても、糸の均整、生地の均整がとてもとれている、本当に素晴らしい生地になっています。
90年前の古いションヘル織機を駆使しながら、ここまでの仕上がりになるのは、世界でも絶対に葛利毛織さんだけ。
この生地を皆様に見てもらえる時が、もう間もなくやってくる。
そして、この生地を使って、洋服をつくりました。
このような"フェレイラ・モヘア"という繊維の存在を、僕に教えてくれたブランド。
"山内"の山内さんと、皆様にご覧頂きたい3種類の洋服をつくりました。
続く。。。