今回、カネタ織物さんで生地を織ってもらい、ファッションいずみさんで縫ってもらった洋服。
その素材は、まさに"幻のコットン"と言えるもの。
"Suvin Gold Supreme(スヴィンゴールドシュプリーム)"
先のブログで書いたけど、"世界最高"と言われるコットンの一つ、GIZA 45。
その素材は、ヨーロッパに独占されており、日本では手に入らない。
もちろん、海外生地の場合は、GIZA 45を使ったものもありますけどね、日本では紡績会社や機屋には流通しないのだ。
対して、今回、我々が着目した"Suvin Gold Supreme"は、日本のとある紡績会社が独占しているコットン原料ということもあり、日本でしか流通がしない。
ただ、しかし、その素材は、日本の洋服の川上の業界でも"公開すらされていない"というシロモノ。
群を抜いた繊度であるが、あまりに産出量が少ないためだ。
そのような、超絶スペシャリティーコットン。
僕もその存在を知ったのが、今から2年以上前なのだが、まさか当店でそのような素材の洋服を皆様にお披露目できるとは夢にも思っていなかった。
取り組むのであれば、つくるのにもエゲツないロットが必要とされるのだが、我々の想いに共感してくれたカネタ織物さんが、そのロットの高いハードルをクリアできるように大量の原料を買ってくれたのだ。
ハンパないくらい感謝してる。
そのために、今回、皆様にこのような原料、"Suvin Gold Supreme"を使った洋服を見てもらうことが実現しました。
だからこそ、そのような特別なものであるから、縫ってもらうのも誰でも良いわけじゃなかったんですよ。
そして、今日は、その"Suvin Gold Supreme"という繊維、そして、今回カネタ織物さんに織ってもらった生地を紹介しますね。
まず、スビン種というのは、日本の服が好きな人なら目にしたり、聞いたことのあるコットンだ。
世界でたくさん存在するコットンの品種の中でも、最高峰に位置するし、世界的に見ると希少種であるコットンだ。
そもそもSuvinというのは、インド原産のスジャータ種とシーアイランドコットンのセント・ヴィンセント種を人間が自家受粉させ、交配させたコットンと言われる。
また、コットンは、綿花の綿毛(コットンボール)を取り出したもので、品種によって、"繊維の長さ"が異なり、その繊維の長さで以下のような分類に分かれる。
・短繊維綿 (21mm以下)
・中繊維綿 (21mm〜28mm)
・長繊維綿 (28mm〜)
・超長綿 (35mm〜)
と一般的に言われる。
"超長綿"というのが繊維の長さが最も長いコットンのことで、長繊維綿の中でも、35mm以上のものが分類される。
そのような中でSuvin種は、コットンの中では、"超長綿"という最高レベルのものに分類され、そのような中でも、特に優れたものと言われているの。
また、このSuvin種を育成するのにもかなり時間がかかって大変みたいで、更には、一つの綿花から取れる繊維量も少なく、超長綿の生産者は年々減少しているそうです。
まあ、ただ、それでも日本のそれなりの価格帯の洋服では見ることありますよね。
スヴィンって。
実は、世界でも最高峰と言われてる品種なのですが、世界の70%もの量を日本が輸入しているそうですよ。
だから、日本ではめちゃめちゃ見るんですよ。
もはや全然特別感がない。フツーって感じ。
でもね、そのようなSuvinだけど、ここからが大事ですよ。今書いてたことはそんなに大事な情報じゃないから。笑
Suvin(スヴィン・スビン)には、"親"がいる。
それが、ファーストピック(一番摘み、二番摘み)と言われる"Suvin Gold"だ。
でもね、Suvin Goldにも親がいるの。
それが、、、
"Suvin Gold Supreme"だ。
更に、これ、めちゃ重要なんですけど、Suvin種というのは、全て、、、
"劣勢遺伝"。
つまり、
親である"Suvin Gold Supreme"
子である"Suvin Gold"
孫である"Suvin"
という順番になるのだが、その"親の悪いところ"が遺伝するんですよ。分かりやすく言うと。
つまり、"Suvin Gold Supreme"以降は、劣化して出来上がるという事。
だから、今回のこれ、マジで、ガチで、ウルトラ、ヤバいから。
実際のところ、厳密には、先述のスジャータとセント・ヴィンセントを掛け合わせた、"一番目"の始まりが"Suvin Gold Supreme"であり、それが劣化して、Suvin Gold、更に劣化して、Suvinというようになるわけ。
こう思うと、もはやインターネットに転がってる情報は、正確には間違ってると思っちゃいますよね。確かに血はつながってるけど、交配してハイブリッドにしてるのは、"Suvin Gold Supreme"のことだろ。って感じ。
Suvin Gold Supremeを自家受粉させた子供、2代目がSuvin Goldと呼ばれ、その3代目以降は、普通のSuvinとなるわけです。
もちろん劣勢遺伝ですよ。
更には、カネタ織物さんがいうには、この"世代という括り"以外にも、Suvin Gold SupremeとSuvin Goldには、決定事項があるそう。
綿花が育つと、コットンボールが出来上がるが、1本の綿花において"最初に発芽する"コットンボールが一番栄養供給に優れ、この発芽する順番の"1番目"と"2番目"の品質の優れたもののみと限られてるの。
つまり、第一世代(親)のSuvin Gold Supremeであっても、3個目以降のコットンボールは、ただのスビンに分類されるそうです。
そのような今回の"Suvin Gold Supreme"。
原産は、インドなのですが、"インド政府公認"の原料。
だから、今回は、店頭販売時にインド政府からの証明書も展示しますね。
そして、その証明書とともに、、、、
生産者 : A.Lakshmanan Santhalakshmi Mills India LLP
収穫年 : 2020年
といかにも厳密そうな証明が送られてきました。
心が奥底から震え上がる。
超絶楽しみ。
ただ、この原料だけではない。
カネタ織物さんが凄まじい、ハンパない、ヤバヤバな生地設計をしてくれ、見事なものが出来上がりました。
これまで絶対に存在したことがなかったクオリティのコットン100%。
それが、これ。
と
これ。
そう。
なっなっ、なななんと、、、今回2種類のSuvin Gold Supreme生地となります。笑
上記に記載の2種類の生地、色だけではなく、明確な違いがあります。
それが、
"平織り"と"綾織り"だ。
平織りが無染色。
綾織りが色がついてる方ですね。
どっちもヤバヤバ。しかも、全然タッチが違う。
だから、全然違う感じの洋服をそれぞれでつくりました。笑
まずは、無染色の平織りについて。
そもそも、今回のこのことは、Suvin Gold Supremeが使えると分かった瞬間に、僕は、"無染色の平織り"が良いと思いました。
それは、せっかくのハイパースペシャル原料であるから、その風合いを最も感じることができ、その上、バチバチのバキバキに使い続けることができる平織りがベストじゃないかと思い、それをブランドを通して、カネタ織物さんに伝えた。
それを前提として、カネタ織物さんが全て"糸の設計"から行ってくれた。
今回のものがスタートから2年以上かかった理由は、主にそこにあるのだ。
その"糸の設計"をカネタさんが約2年もの歳月を費やしてくれたの。
紡績会社とカネタさんによる、度重なる"試紡"。
試して、試して、試して、と繰り返し、カネタさんが生地として完成した時の理想の姿を追究してくれ、これまでのカネタ織物さんのノウハウを全て注ぎ込んで開発をしてくれました。
それも、当店が以前に販売したことのある、DJAの"GIZA 45の330番手"を見て、それを日本で超える、いや"カネタ織物"で超えるものをつくろうと考えて取り組んで下さった。
だから、この生地は、本当に素晴らしいものが出来上がってる。
この"無染色の平織り"生地のことを説明しますね。ここからは、僕もブログに書くのは、初めての領域なので、理解ができない方もいると思いますが、よく読んで頂け、ご理解頂けたら生地の凄みを感じてもらえるはず。笑
まず、僕の希望は"無染色"。
つまり、素材のそのままの色。
これを厳密に汲んで下さったカネタ織物さんは、通常このような生地のソリッドさや光沢を出すために必須項目である、"ガス焼き"の工程を入れないという選択をした。
"ガス焼き"とは、炎の上を高速で糸を通過させ、糸の僅かに毛羽立った繊維を取り除くというもの。
しかし、ガス焼きをするとなると、焦げて厳密には色が僅かに変わってしまうそうだ。
でも、そうすると毛羽立ちや光沢が出にくいのだが、それでも、限りなく毛羽立ちが少なく、繊維の持つ光沢を最大限に引き出す"撚り回数"を徹底的に分析したそうだ。ここにほぼ2年の歳月を注ぎ込んだそうです。
カネタさんが考えたのは、"撚りの前提"として、、、
「繊維の角度を糸と平行にする」ということ。
そうすることで、糸として最大限に光沢を発揮できるそうだ。
その上で、"下撚り"という単糸を紡績する際の撚り回数が、"何回転の時"が光沢を発揮するための毛羽立ちを最も抑えられるかを検証を繰り返したそう。
難しいのは、強く撚り、強撚にすればするほどに糸の毛羽立ちは抑えられるが、そうすると"強撚糸"の特性が勝り、Suvin Gold Supremeの目指した風合いが出にくい。
せっかくの、世界で最も細い繊度の繊維だ。
その繊維の特性も活かしながら、ちょうど良い塩梅を探ってくれた。
そうして出来上がった糸は、見事なもの。
撚り回数というのは、糸の太さ(番手)によって回転数が異なるために、"撚り係数"という指数を用いるそうです。
・織物用の糸は、3.6〜4.3
・ニット用の糸は、3.2〜3.5
・強撚糸は、6〜7以上
このような指標がある中で、今回たどり着いたのは、どこにも属さない撚り係数"5.0"というもの。
こうして出来上がった糸が、"スビンゴールドシュプリームコンパクト85番手単糸"。
ほとんどの場合、単糸は、"Z撚り"という方向で撚糸をされるのですが、先述のように、単糸を紡績することを"下撚り"と言います。
この単糸を双糸に撚ることを"上撚り"というのですが、その上撚りの際に、カネタさんが「繊維の角度を糸と平行にする」ということ目指していたため、Z撚りに紡績され、その方向に向いている繊維を、上撚りで双糸にする際に、"何回転すれば"糸と平行な角度にもっていけるかを計算し、設計したそうです。
もはや、ヤバヤバの世界。
上撚りは、今回はS方向に行ない、そもそもZ撚りに向いている2本の単糸を撚り合わせるのに、何回転の撚り回数が、今回の85番手双糸の繊維を糸と平行にさせることができるのかを計算したということです。
ちょー専門的。笑
そして、この部分は、具体的には社外秘の部分だそうです。
まあ、誰も分かんないと思います。笑
このことは、カネタ織物の太田さんが言われるには、割と難しいことをやりました。ってことを言われていました。
そしてね、更に、出来上がった糸を織り上げる際にも、その前段階で、全ての織物には、糸に"糊付け"という工程が行われます。
これは、織機の中を出来るだけスムーズに糸が通り、織り上げやすくするための工程です。
その際には、超大手企業の何千メートルの生地という規模感ではない限り、1kgごとに"糸の分割"という作業が入るそうです。
基本的に、大規模なロットではない限りは、この1kgごとの糸の分割は行われるそうですが、ここにもカネタ織物さんはこだわってくれた。
糸は、1回触る毎に極小のダメージが入ってしまうそうです。
専門家でない限りは、ほぼ分からないレベルだそうですが、毛羽立ちが発生するため、今回のSuvin Gold Supremeは、出来る限り糸に触る機会を減らすべく、本来なら行なうはずの"糸の分割"を行わずに、糊付けを施してくれたそうです。
ここまでのことを考え尽くす機屋さんは、業界でもいない。
このようなことを取り組んでくれる機屋さんだからこそ、カネタ織物さんでしか絶対的に生産不可能なものがあると感じてる。
そして、"生地の織り"の規格。
僕のカネタさんの一番の魅力としては、"太番手の高密度"の生地。
ただ、これまで、カネタ織物さんであれば、平織りの高密度生地となると、もう少し太い糸で織り上げていたイメージがある。
でも、今回は、オリジナル設計の85番手双糸という細さ。
だから、カネタ織物さんの強烈なタッチを実現するため、"今までの限界を超える高密度"に挑戦して下さった。
カネタ織物の太田さんが言われるには、
「高密度に織れば織るほど、光沢やしなやかさとは逆の性能になってしまいますが、そこは弊社として一番こだわりポイントとして、今までの限界を超える高密度で織り上げ、そこに対して、繊維の魅力がどれだけ輝くか、高級原綿を使うだけならどこでも出来る、あえて弊社で織る意味はここだと思っております。」
この言葉。
まさに、この言葉の通り、素晴らしい生地が出来上がっています。
Suvin Gold Supremeの素材そのまんまの色の、超高密度平織り生地。
カネタ織物さんが、ストレートに"素材の良さと織りの良さ"でつくりあげたもの。
超絶的な魂の生地が誕生しました。
僕は、これまでに、このような生地は出会ったことがありません。
素晴らしい生地が出来上がってる。
今回のこの洋服をつくることを通して、当初、僕自身が出会ってみたかった景色のもの。
コットンで、カネタ織物さんでしか生み出せない、無染色の平織り。
自分の洋服人生で、触れてみたかった世界に、一つ辿り着けた。とこの生地を通して感じています。
そして、もう一つ。
"綾織り"。
実は、当初は、先に紹介をした"平織り"のみで考えてたの。
僕とデザイナーは。
この"Suvin Gold Supreme"の一番良いところを最高潮に洋服にしよう。と思って"無染色の高密度平織り"をカネタさんにお願いしていたから。
でもね、ある日。
今回一緒につくったデザイナーから、「カネタ織物の太田さんが、僕らに言わずに試作していた生地があるみたいですよ。笑」
「それが明日届くんですよ。」と。
電話があった。
そして、その3日後には、僕はデザイナーと服の形の打ち合わせをするため、アトリエに行く予定にしていた。
その日、デザイナーのアトリエで、カネタ織物さんが僕らに"内緒でつくっていた生地"と対面した。
この生地を目にした瞬間、触った瞬間、、、、
全身が震え上がるような衝撃。
なっ、なっ、なんだ。。これは。。。
これまでの洋服人生で見たことがないもの、出会ったことがないもの。
圧巻の生地の輝きと柔らかさ、そして、度肝を抜く滑らかさ。
これ、間違いなく世の中の人間、全員が驚くと思う。
絶対的にSuvin Gold Supremeのポテンシャルじゃなければ、実現できないテクスチャー。
ただ、そこにカネタ織物さんの技術が惜しげもなく、注ぎ込まれてる。
そう。カネタ織物さんは、Suvin Gold Supreme原料の良さをカネタさんのノウハウの中で、最も引き出す設計の生地をつくり、それをデザイナーと僕にプレゼンしてきたのだ。
その生地の持つ、絶対的なものに"見た瞬間"に、カネタさんのプレゼンテーションに心を鷲掴みされた。
もう一回見て。。。
これ。
カネタ織物さんが、試作としてつくって、サンプルとして完成させ、僕らに見せてくれたカラーリングは別のものだったけど、この生地を活かすため、とあるデザイナーと僕とで、デザイナーが持つ何万通りもの色合いから、目指すニュアンスのものをピックアップし、最終的に出来上がった色合い。
"Amphora" = 古代ギリシャやローマで使われていた陶器の色合い。
ブラウンのような、ピンクのような、ベージュのような、それぞれの色合いが混ざり合ったカラーリング。
僕が目指したのは、この生地を洗っていって、使った何年も先に、アンティークの洋服のムードを醸し出せるような独特な色合い。
そして、洗っていった際に起こる毛羽立ちの中でも、"明らかに光ってる"。
「えっ、これ、いつの時代の何の服??」みたいな感じで捉えられるような姿をイメージしてつくりました。
そう、この綾織り生地は、、、
"圧巻の輝き"を放つ生地なのだ。
そもそも、カネタ織物さんが、なぜこのような綾織り生地をつくってくれていたのかというと、「"Suvin Gold Supreme"の性能をこれでもかと見せつけたい」という思いだったそうだ。
その上で、この原料が持つ性能の極振りをさせた生地。
糸は、平織りと同じ"スビンゴールドシュプリームコンパクト85番手"。
ただ、平織りとは糸設計から全然違う糸。
単糸をつくるための、下撚りの"撚り係数"は、3.04という数値だそう。
先述の通り、ニット用でも最低が3.2という中で、更に低い数値だ。
非常に膨らんでいる糸だ。
カネタさんが言われるには、係数3以下は、糸にならないと言われているそうで、紡績可能であり、強度が保てる最低値で撚り係数を設計したそうです。
撚りに関しては、甘撚り(弱撚)であればあるほど、柔らかく軽く、膨らみが出るために、まさに人間が着用しやすい性能になる。
ただ、糸の強度と耐久性が保てないとなると本末転倒になるため、その数値。
上記の3.04という係数をベースに、こちらの綾織りの方も"繊維の角度が糸の撚り方向と同じ"になるように計算して、双糸にしてる。
この双糸にするための上撚りも、下撚り(単糸)の撚りが甘いため、単糸のZ方向繊維の角度も必然的に角度が浅くなるそうで、それに合わせて上撚りも甘く行ない、非常にふんわりとした双糸に仕上げているそうだ。
これは、誰もが触った瞬間にそのことを感じてもらえると思いますよ。
どうも業界では、甘い撚りのものが流行りだそうで、流通してる一般的なものは、どこにでも対応できるように設計された既存の普通撚りの単糸を、上撚りの際にだけ甘くするという手法がとられているものばかりだそうです。
ただ、そのような糸は、繊維の角度が糸と平行になっていないため、"最高の糸"をつくり込んでいくためには、前段階の下撚りから撚り回数を調整しなければならない。
紡績業界でも既成の糸を使用することが大半の中、今回は、カネタさんから「オリジナルで下撚りから糸をつくることが出来て、非常に幸せでした。」という言葉をもらいました。
平織りは、素材そのまんまの色を追い求めたため、"ガス焼き"を行わなかったのですが、綾織りの生地は、カネタ織物さんが考えた中では、染色を行う前提だったようで、撚りが非常に甘い糸であることもあり、ガス焼きは必須。
そのガス焼きで、糸の毛羽を落とし、ガス焼き後もとにかく毛羽立ちが起こらないように工夫を繰り返し、とにかく糸に触らないようにしてくれた。
もちろん、糊付け時に行う1kgごとの"分割"もしなかったそう。
それはすごい。平織りも綾織りも、とにかくとにかく全工程に神経を使って、生産を進めてくれた。
そして、生地の光沢や柔らかさ、滑らかさも圧倒的なのですが、この生地は、糸が甘撚りというだけではなく、生地の組織構造もとても興味深い。
"透けないギリギリ"の生地。
この設計も非常に特徴的に感じる。
日頃から、洋服を選ぶ際には、透ける透けないって結構重要なことに感じるじゃないですか。特に春夏シーズンの服になると。
この"透ける・透けない"ということも理論がある。
使用する糸の番手の前提条件から、ある一定面積に対して、その平面を何本の糸で覆いつくすことができれば透けないのか。
ということがあるそうです。
今回のカネタさんオリジナルの糸を使い、透けない限界の設計をすれば、"光沢"と"柔らかさ"が圧巻の生地が出来上がる理論があったそうです。
だから、この綾織りは、"透けない限界値の糸本数"で平面を覆いつくした構造です。
と言っても、全然、ペラッペラのうっすい生地ができてるということではないですよ。
完成した服は、生地の奥底からの重厚感さえも感じられるくらいにもなってると思う。
まあ、このことは実物を見てもらえれば納得頂けると思いますよ。
ホント、すんごいから。
しかもそれを"シャトル織機"で実現してる。
カネタさんが旧型シャトル織機を使い続ける理由は、シャトル織機は、生地幅が狭いということは以前のブログで書いた通り。
そのため、主流の高速織機であるエアジェット織機やレピア織機では、緯糸が生地に対して平行に通るのに対して、旧型シャトル織機は、その生地幅の狭さから、生地に対して"斜め"に緯糸のシャトルが飛ぶのだという。
この"斜め"に緯糸が通る分、"筬"で一本の緯糸が奥まで押し込まれるまでに、緯糸に膨らみが生まれ、その膨らみを保ちながら織り上げることができる。
だから、完成した綾織り生地を見ると、旧型シャトル織機は非常に適していたということ。
平織りの生地は、紡績に約2年の時間をかけてもらいましたが、綾織り生地の方もすごい労力をかけてもらってるもの。
ここからは、カネタ織物の太田さんからのコメントがあるから、超マニアックな方はよくお読み頂けると面白いと思います。
「当初、この規格は、平織りと綾織りで迷い、非常に悩みましたが、一度両組織とも織りました。
織り上がりでも決めきれないため、染色し仕上げまでやり切りました。
綾でした。光沢、しなやかさ、表情が、同じ甘撚りでつくってみた平織りよりも抜群でした。
しかし、経通し(へどおし)にはとても苦労しました。
経通しについては織物設計で迷い、どちらでも対応できる経通しをしてしまったため、極僅かに織物にいびつが感じられた。
そのため、一度織機から降ろし、再度、経通しの方法を変更して織り付けし直しました。
経通しは、糸切れを感知するドロッパー、そして経糸を上下に開口させるヘルド(綜絖)、最後に緯糸を押し込む筬(おさ)の3点を通していきます。
ここ数年、筬通しについては非常に計算をして、可能な限り意識した筬使いをしています。
簡単に説明すると、糸番手に応じて糸の直径ギリギリに近い筬羽の間隔の筬を使うということ。
細かければ細かい程良いのですが、糸の直径より細かいと糸が通らず、ただし細か過ぎる筬は作れない。
このバランスのせめぎ合いといった感じです。
いびつが出たのは綜絖の方です。
シャトル織機は、良くも悪くもパワーの無い織機であるため、綜絖一枠で作動させられる本数が限られます。経糸の総本数と番手に応じて綜絖枠の枚数を決めるのですが、安全を優先したため少し多くの枚数で設計してしまったようで、多くの枚数を使用した事による歪が生地に微かに感じられたため、非常に手間のかかる作業となりますが、迷わず直しました。
この辺りは、業界特有の産元卸売業者のような書面のみで設計をされている方々では絶対に目に見えない部分です。
自社で製造と企画をこなせる弊社ならではの感覚かと思っております。
今回目指したのは、世界最高の光沢としなやかさ、そして耐久性です。
この度、織り上げた2種類の生地。
平織りと綾織りの生地ですが、例えるならば、
平織りについては、塩コショウ程度で素材本来のお味をお楽しみくださいという感覚。
綾織りは、しっかりと味付けをして最高のお味で召し上がれという感覚かなと思っております。」
以上の2種類の"平織り"と"綾織り"の生地ですが、そのどちらもがSuvin Gold Supremeの素材が最高潮に活きたものが出来上がっています。
皆様に、大きく、大きく、ご期待頂けるものが完成したと思います。
実物を見て、是非、度肝を抜いてください。
そして、この2種類の生地を使って、4種類の洋服をつくりました。
今回の洋服、このようなレベルのものを一緒に目指せ、一緒に濃厚につくりあげられるデザイナーは、どこにでもいない。
僕が本気で、世界に誇ることができると感じてる日本人デザイナー。
まあ、もうファッションいずみの水出さんのインスタグラムを見たことがある方なら分かってると思いますが。笑
"nonnotte" 杉原さん。
杉原さんと今回、極めて濃厚な洋服をつくることができたと思っています。
続く。