洋服の"技術"
僕はいつもその洋服をどうスタイリングし、どう着こなすのか、ということは基本的にそれを手にして頂くお客様ご自身に委ねている。
だから、これをこういうものと合わせてコーディネートしてくださいっていう、ファッション的なアドバイスは店頭でも話をすることってほとんどないし、それはご来店頂く多くの方がかなりレベルが高いからっていうこともあると思う。
だから、基本的にその洋服がどうやってできているものなのかということをできる限りお伝えしていることに徹してる。
どうしてもコーディネートって好き嫌いがあると思うし、よほど長年お話をさせて頂いている方であれば手持ちのものも何があるのかが分かるし、そういう話もすることもあるけど。
そもそも僕は、洋服を形成する複合的な要素、
・繊維(何を原料とするのか、それをどう調達するのか)
・糸(紡績の方法、撚糸)
・生地(整経、経通し、織りの方法、検反)
・染色(染色の段階、方法)
・加工(フィニッシュ)
・パターン(アウトライン、体へのフィッティング、裁断)
・縫製(どう縫うのか、どれくらいの精度で縫うのか)
・仕上げ(プレスの方法)
・思想(何を考え、目指して洋服を生み出すのか)
など、これらの要素が相互に作用し合うことで、洋服がどのように"構成"されているのかがすごく重要だと思ってるし、それを探究し続けることがある種、自分のすべきことだと思ってる。
その上、大前提として自分が魅了されたものを取り扱い、店頭に並べるということをとても大切にしてる。
こうやってやっていると年々、必然的に集まってくるブランドもワールドレベルで強者になってくるし、そういったブランドの洋服はとても素晴らしいものだと思っています。
しかしながら、それを追究していくと自ずと洋服業界の"川上"に遡っていくことになってくる。
そして、気が付いたら自分が知る"川上"に存在する日本が誇るべき技術者の方々も次第に増えていき、反対に、機屋さんや縫製工場さんからの当店への認知も実感する機会も増えてきた。
そうなると次第に、日本に存在する機屋さんや縫製工場さんの卓越した技術をより強固に知る機会が多くなった。
日本で現在も続く、機屋や縫製工場をはじめ、洋服づくりに携わる方々の技術は本当に素晴らしいものです。
とてつもない忍耐力と膨大な時間を費やして得た、想像もつかないような技術の数々。
若い世代の後継者がいないと嘆かれる川上の業界ですが、それはそうだと思います。
だって、簡単にこなせるような仕事じゃないから。
すぐに成果を求める日本の社会、また、そうじゃないと成立しづらくなってしまったこのシステム。
そんなスピード感では、軽薄で簡素なものだけしか世の中に残らなくなってしまう。
本当にそう思います。
そして、更にはそのように技術のある方がなかなか日の目を浴びづらい、浅いところにあるファッション業界。
完全に僕の自論ですが、どういうことかというと、何時間も何日も何ヶ月も何年も、時間をかけて、手をかけて、その技術の集積として完成された洋服が「合わせやすい」だとか、単純に「かっこいい」だとか「ワイドパンツに合う」とか、ポジティブワードだけどとても簡単な、大半がそんなエゲつないくらいレベルの低い"小売店"からの見られ方、伝えられ方でしか"評価"がされてこなかったからだと思う。
一般消費者の方は基本的に洋服を買う場所は、小売店じゃないですか。
だから、その小売店が日々、洋服をどう扱うのか、どうお客様に伝えるのかという毎日毎日の小さな蓄積で、現在の洋服文化は形成されてきてると思う。
「良い」というとても便利で、簡単な言葉で全てまとめられ、片付けられてる洋服の伝えられ方。
それが蔓延し、当たり前になり、それ以上の追究がされにくくなってしまっている洋服業界の"川下"である小売店の在り方。
世界最大のファッションマーケットである日本。
その日本の洋服文化のおおよそはとても軽薄でペラペラなんじゃないかと思う。
だから、若い時に一時的に服が好きでも、見た目だけの表層感ゆえに飽きてしまい、手放してしまい、興味がなくなってしまうのはそういうことが原因としてはあるかもしれない。
もちろん、その方それぞれの経済的な状況や趣味嗜好の変化、家庭環境などはあると思うのですが、"見た目"だけの表層的な世界でしか、その方に洋服のことを伝えることができなかった小売店に僕は責任の比重が結構あると思ってる。
それが多発してるから、いつまで経っても"洋服文化"というものは深く深く根付かず、同時に素晴らしい日本の技術が消えかけてる状況なんじゃないかと感じてる。
洋服って大きく言えば、"人生が変わる"ものだと本気で思うし、とても奥深く、深層の世界だと僕は信じてる。
そのためには、小売店に並ぶ、洋服がどのようなことを経て、そこに並んでいるのかということが、時にはできる限り多くの方の目にされ、更には、それをつくった方がきちんと世の中に評価されるべきだと思っています。
そうすると着る人も、洋服が持つ、もっと真相の深層を知ることができる。
セレクトショップという小売店を営業しながら、そのようなことをいつも考えてる。
だから、何事もスピードを求められる現代では圧倒的に非効率と思われることや、困難なことにトライし続ける技術者の方と一緒になって、心から素晴らしいと思えるものをつくり、それを通して皆様に素晴らしい技術を目にして頂きたいと思った。
日本が世界に誇る"綿織物"の産地へ。
静岡県掛川市。
ここで、世界中でどこを見ても、No.1。
誰もができないことをやっている機屋さんが存在します。
世界で最も"強撚"、"高密度"。
この技術は圧巻。
続く。