人が宿るもの

人の手でつくられるものは、どんなものでも"人"が宿ると思う。

それは、その濃度の違いはあれど、どんなものでもそうだと思う。

たくさんの人が関わり、たくさんの数量をつくる必要のある工業製品になればなるほど、それに携わった人が宿る濃度は下がってきてしまうし、どうしても品質の均一化が最重要視されるジャンルのものでは、人の濃度というものは低下してしまう。

もちろん、生産した数量が少なくて、携わる人の人数も少なくてってものが"高濃度"なものだとだとは限らないけど。

つくる人のパーソナリティ、思想、あとはダサめな言葉だけど、情熱。

そういうものが正しい方向に、バチバチに込められたものっていうのは、とても魅力に感じる。

当店では、取り扱いをする商品には、とてもそのことが重要だと思っているし、商品の使い勝手とかそういうことを特段重視しているわけではないんですよ。

日々の中で使い勝手が良さそうなもので勝負したところで、僕はそういうのが得意じゃないし、そういう便利なものは既に世の中に溢れているから。

だから、ものにとって重要なのは、携わる"人"。

だと思ってる。

洋服などの製品が持つクオリティがとても高く、その上で生産における高濃度な"人の宿り"があれば、それはきっと手にして頂いた方の心を動かすことができ、感動を届けられるものであると思う。

特に今は、この時期ということもあり、22AWシーズンの予定がどんどん進行していってるタイミングだから、いつも以上にそれは常に感じ、考えてる。

もう、何年も前のことで、正確に何年前だったかは覚えてないけど、とある時に名前も聞いたことのないブランドから一通のメールが届いた。

その時は、デビュー前の得体の知れないブランドであったし、頭には留めながらスルーしていた。

そして、それから二週間後。

そのメールの差出人から店に電話がかかってきた。

大体、人間って直接会って話をしていると、その人がどんな人であるのかというのは、同じ空気を吸い、目線を合わせて、話す内容や表情、動きを見ていると、何となく分かるものじゃないですか。

でも、電話って直接顔が見えない、同じ空気が吸えない分、初めての人だと受話器越しでは取り繕うこともできちゃうし、何となく察知しにくい。

ただ、その人からの電話はバチバチに感じた。

話の熱気、息づかいから本気なんだということを。

もちろん、世の中には、たくさんの方が物事をその人なりに本気になって取り組んでいるのだと思うけど、特に上から話をするわけじゃないけど、僕は以前に会ったことがなく、新規でのブランドサイドからのそういう電話などは話をしていると、それが本気なんだっていうことを感じられることは少ない。

自分の方が本気でトライしてるなって思っちゃうことがほとんど。

その当時は、コロナ前だったから、店頭に来て頂くアポイントの電話も多かったけど、その多くをお断りしていた。

なんか感じるものがなくって。

でも、その人は違った。

少しピンとくることがあったし、力づくというわけではないけど、僕自身の心の扉をこじ開けてきた。

だから、その頃に大阪から来てもらい、話をすることにした。

いざ実際会ってみると、やはりそうだった。

ヤバい人だった。

自分より年齢は少しだけ上だけど、ビンビンに、バチバチに感じた。

"人生をかけて取り組む"もの。

その人が携わって生み出すものは、そういうことをとても感じるし、間違いなく、僕は、その人がやってないとこういうものは今の世の中には存在できないレベルのものだと思ってる。

必死で向き合って生み出すものって素晴らしいと思うし、そういうことができるのも限られた人だと思ってる。

その人自身もとても必死だし、自分で言うのもあれだけど、僕も必死。

必死と必死が対峙して、空高く燃え上がる。

だから、僕はその人が生み出すものを折を見て取り扱うことにした。

既にそれは、これまで何シーズンも店頭でお客様方に見て頂いているし、幸いどのタイミングでも完売している状態が続いている。

その上、今ではコロナ禍の影響も見事に受けに受け、全然届かないとかあるし。

まさに、そのブランドのものは、その人が人生を掛けて生み出し、その人がエゲツないくらいに高濃度に反映されてるものだと思う。

もともとオランダかどこかに住んでたみたいなんですけどね、人生の転機があって帰国。

それが今、まだまだ規模は大きくはないと思うけど、日本の方々の心を動かすことができてるんだと思う。

そして、これまでは当店では通常ラインの特定のモノのみしか取り扱いはしてこなかったけど、以前中の以前より、その方とバキバキに話し合ってきたことが形にできました。

今回のものは、その人は高濃度に入って、めちゃめちゃ"宿ってる"けど、そこに付け加えて、僕自身もめっちゃ"宿ってる"。

誰ものハートを撃ち抜くことができるシロモノではないかもしれないけど、クオリティは全員の心を満たすことは保証します。

今回は、全員が見たことのあるジャンルのものだけど、見たことのないものを目指しました。いろんな面で。

と言うよりは、見たことのないもの、世の中にないものを目指したってよりは、自分の思ってることを執拗に伝えまくった。

そうして、自分で絵を描き、こうしてこうしてって僕の心が目指し、進むべき方向をそこに体現したかった。

今回も構想から一年以上はかかってるかな。

こういうものって、すぐに、簡単にはできないものですから。

それでも、僕たちの心が宿ったものができたと思ってます。

AFOUR。

ロシアでウラジーミルさんと、その工房の数人のチーム、そして何よりも大阪に住む泉さん。

泉さんとの夥しい数の思想のぶつかり合い、お互いの心の求めるものを組み合わせたものが生み出せたかな。

近日中にそれをお披露目します。

また追って紹介しますね。

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