このときを待ってた。"AUBETT"

2020AWシーズンデビューで、ありがたいことにそのタイミングから一緒にやってるAUBETT(オーベット)。 まあ、そのときはパンツ一型だけっていう感動的に狭いゾーンを狙ってやってたんですが、今シーズンはコレクションのバリエーションを増やして並べてる。 シャツとかパンツとかジャケットとか、これからはTシャツにポロシャツも予定してます。 ただ、このブログでもインスタグラムでもあげてないので、店頭で見てもらえれば良いかなって思ってるのと、このタイミングまでAUBETTやってるって言わなくても良いかなって思ってた。 で、今回。 そのときがやってきた。 AUBETTのSSシーズン、いや、僕が展示会で見た、取り扱いの有無は関係なく、全てのブランドの2021SSコレクションの中で、もっとも心に突き刺さったモノ。 これまで相当数の洋服を目にして、分析して、着た自負はあるけど、それでも未体験だったというか、初めての遭遇だった。 というか、類似はないだろうね。この感じ。 これこそ、"オリジナル生地"と言うのに相応しいと思う。 その生地を見たのは、今から7ヶ月くらい前だったかな、今でもその時のハートの高鳴りは鮮明に覚えてる。 今までもこのブログの中で散々書いてきたことあるフレーズだけど、 "圧倒的に求めてるとき"に訪れる、劇的な出会い。 そういう洋服をまた用意することができました。 驚愕的な生地のクオリティ、そして、それを使って向けられたベクトル。 まだまだ洋服の可能性ってめちゃくちゃあるね。 これは着てトキめかない人はいないはず。 見た目や色が気に入ってもらえるなら。 というか、自分自身が体験したこの感覚を、皆様の心にも届けたいと思って、こうやって書いてる。 それが、これ。 AUBETT BAGGY TROUSER composition _ SILK/COTTON DOUBLE CLOTH material _ COTTON 58%,SILK 42% color _ CYPRESS size _ S,M,L 2020AWシーズンに扱った一型のパンツ、それと同じ形です。 まあ、厳密に言うと、最初のレングスの設定が伸びてますけど。 パンツなのですが、それに使われてる生地が何なのかというと、先にもお伝えした通り、AUBETTのオリジナル生地です。 上記の通り、混率はコットン58%、シルク42%。 まあ、混率表示は全体に対する素材の重さで決められるので、全体の面積を占めているパーセンテージを現わしているんじゃないけど。 この生地。 経糸にコットン。 緯糸にシルク。 が使われてる。 これが生地表。 これが生地裏。 見て頂いて何んとなく分かる通り、表と裏の生地の色が違います。 そう。 ダブルフェイスということですね。 上が裏で、下が表の生地。 ここで登場。マイクロスコープ。 これが生地の"表"をマイクロスコープで拡大したもの。 そして、これが生地の"裏"ですね。 どちらも縦方向に走る経糸は、コットン。 ベージュの糸って言えば良いかな。 とても美しいね。この生地。 経糸のコットンで言うと、80番手双糸。 つまりは、80番手という太さのコットン糸を二本ねじって、ドッキングさせて一本の経糸にしてる。 そもそも、パンツで80番手って結構細いですね。 デニムとかになると7番手とかになるから全然違う。(数値が低ければ低いほど太い糸になります) でも、その80番手の細いコットンは、双糸で二本の糸が一本になってるから、丈夫ですよ。安心してくださいね。 そして、この綿糸。 糸の段階で染色された"先染め"のコンパクト糸。 っていうのが、何なのかというと、、 生地に色を染める染色という工程には、「先染め」と「後染め」っていうのが存在するけど、「先染め」のほうが、高コストですが、素材の風合いを活かしたまま、ハイスペックな色合いを実現することができる。 それで、「コンパクト糸(し)」っていうのが、コットンの糸をつくったときにどうしても生まれてしまう、毛羽立ちを取り除いて、糸の表面を美しくして、肌への当たりも心地良くしてるってこと。 で、そういう細くて、滑らかで、繊維の特性もきちんと活かされた80番手双糸の経糸なんですが、そうしてる理由がある。 緯糸がシルクだから。 そのシルク、生地の表面のマイクロスコープ写真では、シルクの糸は、気持ち少しだけ縮れて見える「黒い糸」。 これがシルクです。 "生糸(きいと)"。 シルクの中でもいろんな段階があるんですが、生地の表に現れるシルクは、生糸の状態を使用。 対して、生地裏のほう。 これは、"絹紡糸(けんぼうし)"。 絹紡糸については、これまでMOTHER HAND artisanの絹紡糸ニットを紹介したときや、CATHEDRALさんとのシルクロンTをつくったときにこのブログにも書いてるから、それを見て。 過去のブログ見るのがめんどくさい方は、「めちゃヤバいシルク」って思ってくれたらそれで良いです。 一つの生地で二種類のシルクを使ってるから、同じシルクっていう素材でも、繊維の段階が違うから、拡大して見たときに、緯糸がそれぞれ違って見えるってワケ。 表に露出している"生糸"のシルクは、蚕が吐いた糸を煮繭だけして、精練っていう工程をしてないから、野性的な見た目してる。 この生地は、ダブルフェイスっていうのもあり、表側に現れる生糸は、裏の生地とくっつけるための、?ぎの役割である「接結糸」の重大な役目も果たしてる。 でね、ここで重要になってくるのが、、 さっき経糸のコットンのときに触れた先染めってこと。 AUBETTの杉原さんが言うには、このCYPRESSって色を出すために、この繊維の組み合わせで、どうやってこのカラーリングを実現するか考えたそう。 素材には、それぞれ特性があるし、構造も主成分も違う。 だから、コットンとシルク、二種類の素材を上手く染めるために、「二浴染め(によくぞめ)」も考えたそうです。 「二浴染め」っていうのは、後染めに分類されるんですが、 二度、浴槽に浸ける。みたいに思ってくれたら分かりやすいかな。 生地をコットンを染めるのに適してる染料で一度目、シルクを染めるのに適してる染料で二度目、みたいな感じで生地染めをしようとも考えたそうです。 それだと、先染めよりも合理的にもなるし、いろいろと都合が良かったそうですが、AUBETTが目指す、100%のカラーリングにすることがどうしても難しかった。 だから、この色のニュアンスをきちんと実現させるために、生地に織り上げる以前に、糸で「先染め」をすることを選択したそうです。 先染めのほうが技術的にも必要になってくるし、手間もかかる。 ちなみに、今回AUBETTがやってるのは、先染めの中でも「枷染め(かせぞめ)」ってやつだから、より一層のクオリティですね。 まあ、枷染めの話をしちゃうと、また複雑になるから、それは今度ね。 そうなると必然的にプライスも上がってきてしまうのですが、杉原さんが描く"AUBETTクオリティ"を世の中に生み出すためにやり切った。 でね、どうしてこの色にすることを目指したのかというと、 "長年着古しても成立する色" をつくりたかったから。 この生地で組み上げられたこのパンツ、素材のクオリティがクオリティだから、すごくドレスっぽい、いわゆる上品な見た目してるんですけどね、最初は。 でも、その綺麗なトラウザーを目指してつくられたんじゃないんですよ。 そこが素晴らしいね。 世界中から集められた高品質な原料を、高度な技術で形にした、極上品。 あんまり変なこと言ったら杉原さんやオーベットチームの皆さんに怒られちゃうからアレだけど、僕はこのパンツが心に突き刺さったのは、新品の状態での姿ではないの。 新品では点数低くて、着ていくほどにポイントUPするかな。 展示会で杉原さんやAUBETTチームと話し、この生地のこのパンツを見て、着た上で、 このパンツの、「その先にある素晴らしい姿」が想像できたから。 80双コンパクト糸、二種類のシルク、その密度感、色、、、などなど。 このパンツを構成している要素はいろいろとあるんですが、それが全て一体となって、使っていったとき、着古して年月を経たときに、スペシャリティートラウザーになるものだと感じた。 だから、実はこのパンツ、当店に到着してから既に一ヶ月以上経ってるんですよ。 長らく在庫を保管してましたね。 2021年の年明けからNEATとの別注デニムを丸二ヶ月毎日穿いて、2末に発売し、完売。 そして、3月上旬から今までAUBETTのこのパンツを毎日穿いてた。 それが、これ。 一回手洗いして、水に濡れたときの様子も理解して、それからは洗濯機にダイビングさせること二回くらいかな。 出張先で、夜にホテルでこれ穿いたままコンビニで買ったサラダ食べてたら明太子ドレッシングが飛び散って薄っすらシミになってる箇所とかもあるけど、モーマンタイ。 全てが着古し、その上で成り立つことに向けられてるから、このパンツ。 で、シワが入りやすいですこのパンツ。 というか、それを狙ってます。 だから、二種類のシルクを入れてるっていうこともあるんですよ。 そのシワになりやすさはシルクの特性ですね。 そう考えると、新品のような綺麗な状態で穿き続けるよりも、しこたま着て、洗濯して、っていうのがベストかな。 洗って干して、そのままの洗い晒しで着ていったら、"膨らみあるナチュラルなシワ"が世の中の他のパンツと別次元の見た目をつくってくれますよ。 少しバキバキと硬そうに見えるシワだけど、どっちかというと柔らかみのある優しいシワって感じですね。現物は。 あと、この生地のもともとの特徴ですが、圧巻の膨らみです。 触っただけで瞬時に感じる密度感とシルク以外の繊維ではあり得ない、生地のタッチ。 これ新品ですが、平置きしても信じられないくらい、ボヨンボヨンに浮き上がる。 でも、それが意味があって、高密度な生地でダブルフェイスなのに、春夏にサイコーなの。 理由は、肌から離れるから。 自立してる生地って思ってもらっても良いかもしれませんね。 仕様で言うとベルトループはディッキーズのワークパンツのような太幅。 これも意味があって、 前から見ると美しいアウトラインがきっちりと描かれたトラウザー。 でもね、横から見るとフロントビューとは裏腹なバギーシルエットの絶景が眺められちゃうワケ。 このパンツはお尻の"くり出し"をパターン操作ですごく工夫してるから、前と横の見え方が全然印象違うのよ。 だから、名前がBAGGY TROUSERってなってる。 そして、そのスタイルは、スケーターが穿いていたようなウエストが大きなワークパンツのような見え方を狙ってる。 それで、太い幅のベルトループとか縫製仕様とか。 そう思うと辻褄が合ってくる。 そのパターン、ディテールで設計されたトラウザーの形を"最も活かす"ための、AUBETTオリジナルのダブルフェイス生地。 そういうベクトルに向けてつくられた、ハイパー綿密に組み上げられたトラウザーです。 でも、単純にワークパンツのスタイルを真似てるんじゃなくて、 穿くと横から見えるアウトサイドシームにはダブルステッチが入り、ワークパンツ仕様。 ただし、裾にはドレストラウザーの処理を持ってきてるから、単にワークワークしてないの。 あと、マーベルトのとこにはパイピング処理してるし、フロントボタンやバックポッケのボタンなどは全て本水牛手付け。 フロントファスナーは、エクセラ。 どれだけちゃんとしてるトラウザーかは明白ですね。 で、これが僕がいつも穿いてた私物です。 シルクのナチュラルなシワが入ってるけど、パンツの外郭はすごくくっきりしてる。 少しグリーンというか、カーキに寄ったカラーリングもということもあり、どことなく枯れてきた欠片も感じる。 ブランドでは、このサイプレスって色の他に、ベージュもあったけど、ベージュじゃこうはならないから完全にサイプレスのもんですね。 あと、サイズは本来ならSサイズがジャストだけど、ワンサイズ上げてMにしてます。 それで、もともとフロントにタックがないけど、タックを左右それぞれ一本ずつつくって穿いてる。 で、これが絶景のサイドビュー。 この生地すごく丈夫でね、全然ダレないんですよ。 お尻のくり出してる部分とか余裕で健在だし、体の曲線にあった、尋常じゃない立体感が見てもらえると思います。 まあ、サイズ選びについては好みですね。 僕は、このフロントとサイドの見た目をバツグンに活かしたかったから、ワンサイズ上げてウエストの生地余り分量をタックにして穿いてるけど、ジャストサイジングでも充分に楽しんでもらえると思いますよ。 まあ、いろいろと書いたけど、全てがAUBETTが目指す、一つの形になるように設計されてる。 好きな方はハマってくれるんじゃないかな。 プライスはあんまり手に取りやすいとは言えないけど、このトラウザーの組み上げを考えるとモノが価格を圧倒的に超えてきてる。と思ってる。 あと、洗ってみると生地の感じは、夏にも適してるかも。 サイズはS,M,Lのブランドのフルサイズ展開です。 数量は限定的にはなるけど、好きな方に見てもらえたら嬉しいです。 4月10日(土)の12時より店頭で発売しますね。
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