今日は、A.PRESSEを紹介しますね。
プリズナーデニム。
今回のもハンパじゃないくらいオリジナルに忠実で、その加工表現は凄まじいですよ。
当店に納品されたのは、少し前なんですけどね、季節的に本番はこれからだから。
このパンツ。
だから、今までこのブログで紹介するのをとってた。
少し前までの気候だと、この生地では穿いても寒かったと思う。
これから迎える季節にヴィンテージや古いものがお好きな方で、夏でもフルレングスのパンツを穿く人にはすごく良いんじゃないかなと思ってる。
A.PRESSE
Vintage Prisoner Denim Trousers
material _ COTTON 100%
color _ INDIGO
size _ 1,2,3
これ。
1940年代と思われる古いプリズナーパンツが元ネタになったそうです。
A.PRESSEの重松さんが所有するそのヴィンテージのプリズナーデニム。
僕もその元となった実際のヴィンテージを見せてもらったのですけどね。
もう、似てるとか、寄せてるとかじゃないの。
そのまんま。
重松さんが言うには、時間を経て様々な人の手に渡っていき、リペアやカスタムを繰り返しながら、現代にその姿を残してたパンツ。
その元ネタのパンツには、前側の左右の太ももに分かれて、"P"と"W"の"Prisoner of War(戦争捕虜)"の印字がとても薄っすらと書いてあった。
そして、今から約80年もの時間を経てきた中での生地のダメージが存在した。
でも、今回紹介するA.PRESSEのこのパンツと、元ネタヴィンテージとは、"PW"の記載がないことや、ダメージの具合が違うだけしか違いがない。
この再現は、誰もなし得ない途轍もなくハイレベルですよ。
これは、もうホンットにすごいから。
ホンモノですよ。ホンモノ。モノホン。
もの凄い加工技術してる。
まず、このパンツ。
生地がとても特徴的。
約80年の時間を経てきたものにとても近い生地のタッチをしてる。
人間一人の人生と同じほどの時間の中で、痩せてきた生地の質感に近い。
カサっと乾いて、気持ち少しだけペーパータッチ。
そして、何よりもその色合い。
元ネタのオリジナルヴィンテージが誕生した時には、濃紺のリジッドデニムだったものが、長い年月により、ほとんど白に近いような、かなりフェードしたデニムの色。
ただ、昔のもの特有の"タテ落ち"はオリジナルも残ってたから、そのタテ落ち具合も完全再現。
そして、その上から、ピンク色の染色がされてたんですよ。
ピンク。
ミステリアス。
そのピンク色の染色は、表だけではなく、きっとパンツ全体をドボッとまるまる染めたみたいで、内側までピンク色に染まってた。
ただ、そのピンクさえもかなりフェードしてたの。
その非常に色落ちしたタテ落ちが残ったデニムの上に、染められたピンクのフェード具合。
そして、その色ムラ。
この世界中探しても同じ個体は存在しにくいプリズナーデニムの生地の風合いを完璧に再現してる。
僕は、20代前半だった頃、アメ村のヴィンテージレプリカのアメカジブランドのジーパン屋でバイトしてたんですが、日本の優秀なレプリカブランドも、海外のそのようなブランドも、ここまでの加工感は誰も実現できてなかった。
ここまでのレベルは前人未踏だと思いますよ。
元となったヴィンテージのPWデニムも、当時の所有者が人工的に手を加えたものですが、その変化は決して意図していたものではないはず。
そのような過去の所有者が加えたものと、自然発生的に加わったものと、長い年月の時間。
それにより現在に姿を残した"プリズナーデニム"が、人間の手によって、同じ見た目の状態に到達してる。
この見た目にするには、通常では考えられない尋常じゃないほどの数の試作と試行錯誤があったのが、とても簡単に想像できる。
ただ、このパンツは、元ネタの生地の変化だけではなく、ディテールも完璧に同じにしてる。
その仕様を見てると、元ネタのミステリアスな要素をふんだんに感じるんですよ。
まずはオリジナルに忠実に"針シンチ"。
左右のポケットは、それぞれ片玉縁。
まず、この時点でパッチポケットではないんですね。
デニムなのに、この時代のチノパンのディテール。
左側のみボタン付き。
このボタンもデニムのパンツでは当時から一般的ではないんじゃないかな。
そして、かなり細幅のウエスト帯。
ただ、ウエスト帯の真ん中を見てみると、センターで切り替えられてる。
これ、フツーはデニムのパンツでは、ウエストベルトの切り替えって存在しないですからね。
チノパンではあるのかな??
今で言うと、ウエストのサイズを調整することを可能にするための切り替えだから、スラックスにしか取り入れられないディテールなんですよね。
もちろん、この箇所も元のオリジナルを再現してるから、そもそも"PWのパンツ"で、わざわざ生産時の工程数が大幅に増えるご丁寧な仕様は必要だったんでしょうかね??
フツーの頭で考えると明らかに省かれるディテールだと思うけど。
知ってる人いたら教えてください。笑
次は、フロントに目を向けると、サイドのポケット。
これ、写真で分かりますかね??
このポケットの口、カーブしてるんですよ。
ストレートじゃないの。
今の世の中につくられるカジュアルなパンツの場合は、このポケット仕様の場合は、ほとんどがポケット口がストレート。
もし、カーブさせるなら分かりやすく意匠を見せるためにもっと大胆にカーブさせるはず。
でも、ヴィンテージのものは繊細なカーブだった。
PW用のパンツだから、主張させ過ぎてないの。笑
捕虜のパンツと言えども、当時のものがいかに丁寧につくられていたのかがすごく感じられる。
そして、さっきも言ったけど、かなり細幅のウエストベルト。
ベルトループの長さもそれに伴って短め。
細いベルト向きですね。
ただ、このベルトループもフツーじゃない。
これ。
ウエストベルトと、内側の見返し布(白い生地)との間に、挟み込んでる取り付け方。
"流し込み"と言いますね。
更に、下部も。
流し込み。
ベルトループの上下ともに、ウエストの生地の上に乗せて縫い付ける方法ではなく、丁寧に内側に流し込んでるの。
囚人捕虜のパンツをここまで丁寧に縫う必要があるのか?とめちゃくちゃ疑問に思うけど、それだけ昔の仕事は、何事も丁寧だったということですかね。
裾。
裾は、チノパンのように生地端から3cmの幅での仕上げ。
これもデニムのパンツでは通常、あり得ないと思う。
そして、インシームとアウトシームともに、縫製仕様は"巻き縫い"。
ワークですよ。ワーク。
巻き縫いということもあり、激しい加工も加わったことで、既に深いシームパッカリングのボコボコが生まれてる。
次は、ここも特徴的。
フロント開きは、ボタンフライなのですが、ボタン取り付け側に気になる箇所がある。指先の部分です。
ボタン一つ一つの区切りにステッチを本縫いで入れてるの。
これは、前立てが開いてしまわないようにするための仕様です。
このように白い生地で、見返し布も縫い付け、きっちりしっかり補強して仕上げた上で、更に、開き止めのステッチを入れてる。
しかも、この開き止めのステッチは、表に干渉しないように、ステッチブチ抜きではなく、丁寧に内側だけに入れてるの。
これ、完全に仕立ての良いパンツをつくるための生産プロセスですよ。
5Pのジーパンだったら、こんなことなってないから。
オリジナルヴィンテージは、どこまで出来上がりのレベルが高い"PWパンツ"を目指してたんでしょうね。
ただ、それを同じようにきちんと再現するA.PRESSEも相当狂ってる。
ウエスト周辺だけで、いろいろとディテールが詰め込まれてる。
そして、内側へ。
先述の通り、ポケットの袋布もピンク色に染まってる。
ベルト裏に見返し付きだし、オリジナルがよくできてる。
そして、このA.PRESSEのものも内側のつくりまで、完璧に再現してる。
重松さんに見せてもらった元ネタと、内側まで全く一緒ですから。
バックも袋布付き。
パッチポケットじゃないから。
バックの左右の身頃付け。
全然気付かなかったんですけど、この箇所が2回縫われてるんですよね。
これ、撮影したものがたまたま2回縫われてるんじゃなくて、全部がこうなってる。
しかも2本のステッチが重なって縫われてるから、何か意味があるのかな?
それとね、内側のオーバーロック。
これも激ヤバ。
太番手の糸で、粗いピッチのオーバーロック。
これも当時モノならではですよ。
一応、オーバーロックがかかってるから、全体は解れてはこないけど、生地端からの糸は飛び出してくる。
このオーバーロックの間隔や糸番手も再現してるの。
この糸の吹き出し方も、新品なのに時間を感じる。笑
当店では、日頃、オーバーロックからの糸の飛び出しがあった場合は、それを綺麗に取り除くようにしてるんですけどね。
A.PRESSEの今回のプリズナーデニムに関しては、この箇所さえもデザインだから、そのままにしています。
だから、内側も楽しんで。
生地のタッチとしては、とても軽いですね。
穿いてるとこれから気温が上がった季節に軽やかに使ってもらえると思います。
シャツ地ほどではないですが、かなり軽いです。
それは、約80年の時間を経たことと、いろんな所有者の手に渡ったオリジナルの生地の"痩せた"質感を再現してるために、薄めの生地になってる。
新品の状態でもこの見た目。
A.PRESSEは、やはり加工レベルが飛び抜けてる。
元ネタになったプリズナーデニムパンツの全体の色ムラ。
それが、当時、プロが染めたものなのか、シロートが染めたものなのか分からないけど、年月を経たのに伴い、ピンクの色ムラが激しかった。
その見た目、質感を超忠実に再現してる。オリジナルへの忠誠心。敬愛の念。
新品の状態から、バキバキに穿いて、使っていくことに伴って、どんどん生地がヘロヘロになっていく。
でも、それで良いの。いや、それが良いの。このパンツは。
そうすると、ヴィンテージを取り扱う古着屋さんや、本気のヴィンテージ好きの方から、「すごいの穿いてるな。」って言われると思うから。これ。
見た目はオリジナルと一緒だし、再現レベルがハンパないけど、どうしても僅かに新品の硬さが残ってる。
だから、今は、最初は、とにかくそれを抜いてあげること。消してあげることがとても重要になってくると思いますね。
そうすると、ここまでブランドと職人が手を尽くした加工感と、完全に一体化してくると思うから。
そうなれば、完成形ですね。
A.PRESSEのプリズナーデニムは。
身長178cm、体重60kgでサイズ1を穿いてる。
これからの季節にとても良いと思いますよ。
古いものがお好きな方は、見てみてください。