先日、少し触れた"コットン"のこと。
今回は、とあるブランドと一緒に、僕たちが"現時点で一番"だと思うコットン原料を使い、機屋さんに生地を製織、そして、それを縫う"縫製工場"も指定して洋服をつくりました。
これまでは、"ZZ強撚綾三重織り"の生地や、"フェレイラ・モヘア"、"グアナコ×FOX50G"など、生地をオリジナルでつくって皆様に紹介をさせて頂きましたが、どれも何年もかけて進めてきたものだったんですよ。
今回も、2年以上の時間をかけてきた。
ただ、今の時点では、新たにこのような"生地づくり"からスタートする洋服は、今は進めていないから、当面このようなものは出る予定はありません。
そして、今回のもの。
先日、少し触れた"コットン"。
先述のように、我々が一番だと思える"コットン繊維"だけを使った洋服。
それを織ってもらったのは、"カネタ織物"さん。
綿織物の産地である静岡県。
そこの掛川市に位置するカネタさん。
カネタ織物さんは、
「カネタ織物でしか織れない、他ではマネできないモノづくり」
という言葉を掲げる。
僕は、まさにその通りだと感じる。
世の中には、どこにでも"コットン100%"の生地は存在する。
カネタ織物さんの生地は、混率だけ見れば、どこにでもある表記。
でも、コットン100%なのに、触った瞬間に全然違う。
時には、目で見ただけでも全然違うことさえある。
強烈なタッチと、想像を大きく超える破壊力のある生地の迫力。
僕は、カネタ織物さんが織る生地を知ってから、"コットン生地"の概念が大きく大きく変わった。
カネタ織物さんは、"旧型シャトル織機"を22台保有する。
それに加えて、シャトル織機よりも織り上げるスピードが速い"レピア織機"が2台。
主として使うのは、"旧型シャトル織機"だそうで、日本の綿織物の産地である静岡県でも最多の台数を所有しているという。
ただ、大規模な機屋さんではなく、数名の職人さんと、代々からの家族経営で、一つ一つをとても濃厚に仕上げている機屋さんだ。
機場は、生地を織るのに最適な温度調整と湿度調整が行われ、古い織機がズラリと並ぶ。
その一角には、写真のようにあたかも雪が降り積もったかのようなシャトル織機も鎮座している。
カネタさんが使う"旧型シャトル織機"というのは、現在では生産がされていないもので、様々なものが発達した今の世の中では、決して"機械"とまでは呼べないような古い織機。
イメージとしては、鶴の恩返しに出てくるような、"手織り機"あるじゃないですか。
その動力を強くしたもの。
"昔の道具"というようなものだから、それを使い続けると必ず故障が起こってくる。
だから、今は使わなくなった旧型シャトル織機も、処分せずにとっておくそうです。
今、現役で使っているシャトル織機の故障が起こった場合にも、部品を交換して作動するようにするため。
そういう"旧型シャトル織機"を駆使して、世界中どこにも類似が存在しない"カネタ織物さんだけ"の生地が生み出されるの。
ホント、全然違いますから。途轍もなく、凄まじい生地ですよ。カネタさんがつくるものは。
創業からは、70年以上経つそうです。
通常、今の世の中で、このような仕事をする人は、"今までこうやってきた"ということや、"これはこういうもの"というような、これまでの歴史になぞるという仕事をする方が多いと思います。
"保守的な中の保守"という感じになってしまう。
ただ、僕が知る限り、カネタ織物さんや、葛利毛織さん、山栄毛織さん、三星毛糸さんは、これまでの歴史・伝統というものも大事にするけれど、そこだけではない。
"保守の中の革新"を行ない続けている方々だと思ってる。
そのような中でも、カネタ織物さんは、特に情熱的。
今回のこのコットン繊維は、本当に特別なものなのですが、通常だと世界的に見て、とにかく上質な繊維というのは、ヨーロッパに独占されたり、そこまでではなくともヨーロッパがほとんどを占めることがある。
例えば、コットンでもGIZA 45は、カネタさんが言うには、ヨーロッパに独占される繊維だそうで、日本に入ることはないそうです。
ただ、今回の原料は違う。
このコットンの存在を僕たちに教えてくれたのは、カネタ織物さんなのですが、それはヨーロッパに行くことはないそうです。
紡績会社の関係で、日本にしか入らない。
しかしながら、あまりにも産出量が少ないため、その存在は、日本でも"公開されていない"そうです。
だから、洋服の川上の業界であっても、知っている人がほぼいない原料。
そんな"幻の繊維"とも言えるもの。
これまで、僕は、自分自身でもカネタ織物さんを訪れ、そのモノづくりや考え方、生み出すものへの情熱というのをバチバチに感じてきた。
そして、当店で取り扱いをする"山内"や"Araki Yuu"、"COTTLE"、"nonnotte"などのブランドを通してカネタさんの生地にとても心動かされ、掴まれ、自分のコットンへの捉え方、考え方が変わり、
"誰がつくるのか"
ということの重要性を、奥底から考えさせられた。
だから、僕は、今回のこの夢のような生地をカネタさんにつくってもらいたかった。
だけど、この原料は、あまりにもハードルが高く、目の前には、一発で不可能だと思えるロットが突きつけられた。
でも、それをカネタ織物さんが実現してくれたの。
CASANOVA&COと、今回一緒にこの洋服をつくるブランドとが、本気でやりたいと思うなら、、、
「ウチ(カネタさん)もやってみたいから、ロットを持つので、一緒にやります。」と。
信じられない。
あまりにも嬉しすぎるお言葉だ。
そこから2年の期間をかけて、研究・開発をしてくれた。
そうして、今回、今まで世の中に出たことがない"綿織物"を生み出してもらうことができました。
これがその"コットンの糸"。
これは、間違いなく"カネタ織物"さんでしか生み出せないもの。
そういうカネタ織物さんなのだ。
そもそもね、生地のことになるんですが、
綿織物というものは、50m前後の長さと、その"幅"でつくられる。
50mの生地は、ロール状に巻き取られ、それを"原反(げんたん)"と言います。
原反は、50mの長さなのだが、もちろん長さだけではなく、"幅"という概念が存在する。
通常、量産される生地は、140cm〜180cmの幅設計であり、それは"ダブル幅"と言われる。
生地は、1m単位で"単価"というものが出されるのだが、1mの長さに対して、例えば150cmの生地の幅があれば、1m(150cmの幅)で単価が算出され、その量を使うことができる。
例えば、シャツ一着あたりで使う生地分量は、大体1.5m(生地幅150cm)。
仮に、1mあたり1000円(卸価格)の生地だとしたら、"1.5m(生地幅150cm)×1000円"だから、1500円ということ。
だが、カネタさんは、使うシャトル織機が"80cm"くらいの幅しかないの。現在主流の半分だ。
中には、改造して、"ダブル幅のシャトル織機"もあるそうですが。
基本的は、80cmという狭い生地幅。
ということは、主流のダブル幅と比べて、生地の幅が半分しかないから、シャツ一着つくるとなると単純に約2倍の使用量となる。
一着あたりの生地コストも当然かかってくるわけだ。
洋服ブランドは、当然、商品価格の値段も気にするわけだから、生地を効率良く使え、価格とのバランスを重視したものをつくろうとする。
だから、生地の幅が狭いカネタさんの生地で洋服をつくろうとすると、価格が高くなってしまう可能性があるわけだ。
それに加えて、"生地が小さい"というイメージだから、洋服生産プロセスでも"裁断テクニック"が必要となってくる。
ただ、カネタ織物さんは、シャトル織機を駆使し続け、シャトル織機でしか実現できない可能性を追究している。
"生産効率"の側面を最重要視して服をつくるとなると、カネタさんの生地は、商品販売価格が高くなってしまう可能性があるから、適合しにくい。
当店でも、カネタさんの生地を洋服に使う山内の山内さんは、カネタさんのコットン生地は、使うブランド側にも技術が必要だとも言っていた。
だから、商品価格や生産時の"効率"を重要にしているメーカー、ブランドだと、カネタ織物さんの生地は、使われにくいのだが、だからこそ、カネタさんは、"カネタ織物でしかつくることができない生地"を追究している。
"生産効率"だけじゃない、"心を動かすことができる"生地。
生地に圧倒的な技術が伴った"クリエイション"が宿っている。
そこには、"これまで通りの仕事をこなす"という考えは存在しない。
機屋さんとして、"綿織物で"常に世の中に本当に価値ある良いものを送りだそうと思い続ける熱量。
それこそが、研究・開発に力を注ぎ続けられると思うし、そういう人たちがつくったものは、出来上がりが素晴らしいもの。
そういう生地だから、絶対的。
他のコットンの生地とは違うのだ。
もう間もなく、皆様に紹介できると思います。
そして、この素晴らしい生地を縫って縫製してもらうことを、僕自身が念願だった縫製工場さんにお願いしました。
埼玉県の
"ファッションいずみ"さん。
続く。