Isabella Stefanelli (イザベラ・ステファネッリ)
紅茶で染められた一つ一つの下げ札。
“本物のハンドメイド”と言われるIsabella Stefanelliの洋服のそれぞれに付属する。
このタグには、生地の経糸、緯糸、縫製の糸の説明だけではなく、それぞれ過去に実在した人物の名前と写真、そして、その人物が生きていた時に、どのような活動をしていたのか象徴的な部分が要約されている。
Isabella Stefanelliの洋服には、過去にこの世界に実在した人物の名前が付いている。
それは、ドメスティックブランドでされるような、後付けの名前ではなく、その人物ありきの洋服。
当時、それぞれの人が生きていた時代には、異端児とされていた人や、現在では当たり前になっていても、その時代には、主流ではなかったことを行っていた人、亡くなってから世間に評価された人など様々。
Isabella Stefanelliのイザベラさんが、その人の生き方に共感し、自分もそうでありたいと感じた人物。
そのような人が生きていた時代には、”こんな洋服を身に纏っていたのではないか”と、生きていた時を思い描いて、デザインされるのがIsabella Stefanelli。
その名前が付いた洋服のそれぞれには、紅茶染めが施された下げ札が付属します。
当店では、2回目となるIsabella Stefanelliの秋冬の納品が、先日ありました。
この季節において、コレクションの時期とは、かなりのタイムラグがあるけど、このブランドに関しては、そういうもの。
それだけのことが一着一着の全てに施されてるから。
まず、Isabella Stefanelliの洋服は、通常のブランドで当たり前に存在する、”展示会サンプル”というものが存在しません。
シーチングという仮縫いの布に縫製と、一部ピンが打ってある状態で、その洋服の名前が付くものと同じ”洋服の形”がハンガーにかかってるだけ。
そして、その洋服に使うことができる生地の小さなサンプルが存在するだけです。
それを元に、頭をフルで駆使して想像し、その場で、展示会のアポイント内で、オーダーをする。
これほどまでに、頭の想像力を限界レベルまで使うブランドは、世界に存在しないと思います。
だから、Isabella Stefanelliを取り扱う全てのディーラーは、完成した洋服がイギリスから店舗に届くまで、誰も現物を見ていないの。
ヤバいでしょ。
ただし、完成した洋服は、100%、必ず、絶対に、自分たちが展示会場で想像したよりも、”遥かに上”のクオリティで届けられる。
このことは、Isabella Stefanelliに約束されている。
それは、今年の1月。
僕自身が、ロンドンのイザベラさんのアトリエに行った時に、体感し、確信した。
1月にパリ展示会に行った際に、自分にとって絶対に見るべき必要がある。と思い、日本のIsabella Stafenalliの関係者さんに相談し、本人に確認してもらい、パリ展示会の後に、ロンドンに行き、イザベラさんのアトリエで、どのように洋服をつくっているのか見せてほしいと頼んだ。
だから、パリからイザベラさんのアトリエがあるロンドンの郊外まで行ったの。日帰りで。笑
超早朝にホテルを出発し、夜中に宿泊してたパリのホテルに到着。
もちろん、イギリスも初めての国だったけど、事前にイザベラさんと連絡を取り合い、パリ発のユーロスターが到着するロンドンの駅からのチューブ(日本でいう地下鉄)の乗り方、乗り換えなども丁寧に教えてくれた。
このことが当日の、特に、帰りの僕をとても助けてくれることになった。
イザベラさんが写真の上に、優しくも手書きで説明してくれたチューブ路線の案内がなければ、僕はトラブルに巻き込まれたこともあり、予約していたパリに戻るためのユーロスターには乗ることができなかっただろう。
とても感謝してる。
僕がIsabella Stefanelliのアトリエに行ったのは、日本人では3人目だそう。
先の2人は、日本のブランド関係者で、イザベラさんを支えている方々。販売するお店の人ではないの。
そう。
つまり、僕は、取り扱い店舗として、日本で初めて、Isabella Stefanelliのアトリエに行き、直接イザベラさんの洋服づくりのプロセスを見に行ったのだ。
幸いにも。
ロンドンのセントパンクラス駅。
ハリーポッターシリーズの最初、賢者の石で、ハリーポッターが魔法学校に向かう際の撮影シーンの舞台となった駅だそう。
ユーロスターでこの駅に到着し、イザベラさんに連絡。
それからチューブに乗って、約40分。
パリのメトロと違って、イギリスのチューブの方が、ちゃんとしたアナウンスなどもあって、丁寧に感じた。
少し日本に近いなと。
イザベラさんのアトリエが位置する最寄駅に到着。
そこから、また連絡し、これから歩いて向かいますと。
パリとは比べ物にならなかった程、寒かったロンドン。
身を縮み込めながら歩いていると、遠く、前から、手を振って駆け足で近寄って来てくれる女性が見えた。
極寒の寒さが一気に吹き飛んだ。とても心が温まる。
イザベラさんが途中迎えに来てくれた。
やっと会えた。
もちろん、イザベラさんと僕は初めて会う。
ただ、日本からやって来た僕のことをとても歓迎してくれてるようだった。
この日も、いろいろなことを教えてくれながら、僕がいろんなことを学ばせてもらっている合間を使っては、常に洋服の手縫いを行なっていた。
それだけ、常に忙しい中で相手をしてくれた。
ロンドンの冷えた外から、イザベラさんのアトリエに入ると、そこからはもう、”世界が違った”。
この体感は、今でも鮮明に覚えている。
これまで当店で、Isabella Stefanelliを着てみて頂いたお客様が言っていたことでもあるけど、Isabella Stefanelliの洋服は、着ると、”優しさに包まれる感覚”がある。
それは、着心地が柔らかいとか、そういった物理的なことではない。
僕がイザベラさんに会った瞬間、アトリエに入った瞬間に感じたのは、イザベラさん本人の圧倒的な優しさ。
それが、イザベラさんがずっと製作を行なうアトリエにも、つくる洋服にも、ものすごく宿っているのだ。
一着の洋服の生産に、果てしなく思える程の、圧倒的な時間のかけ方、膨大な手の施し方、それだけ一着と向き合うからこそ、イザベラさん本人が、全ての洋服に宿っている。
“本人が超濃厚に反映された洋服”。
それがIsabella Stefanelliの洋服だ。
4歳から縫製を始め、40年を超える洋服づくりのキャリア。
それを持ってして、全ての経験と技術を一着に込める。
イザベラさんは、自分自身がつくったIsabella Stefanelliの洋服を”KIDS”と呼ぶ。
「自分の可愛い子どもたちだ」と。
その日、一日の限られた時間しか滞在できなかったけど、まさにそうなんだろうな。と感じた。
この洋服は、次元が違う。
洋服のスケッチから、立体裁断、パターン設計、デザイン、縫製、そして生地の製織。
洋服づくりにおける、”全て”を自分で完結できる人物。
もはや、デザイナーという言葉の枠を大きく凌駕してるし、世界中見ても、そのような人物は、僕は他に知らない。
Isabella Stefanelliの洋服は、一つの例えで、”即興的”と言われるが、確かにそう言われると分かりやすいかもしれない。
通常の服づくりには存在する設計図や仕様書が存在しないし、一着の洋服をつくっていくプロセスもバラバラ。
だから、同じ形でも、生地によって全て縫製をはじめとした色々なディテールが違うの。
ただ、僕は、厳密には、”即興”だと思わない。
まず、Isabella Stefanelliの洋服には、手縫いが多用される。
もちろん、本縫いのミシンで縫製している箇所もある。
ミシンも一台だけアトリエにある。
例えば、同じVirginiaというコートでも、生地の素材、厚み、手織りなのか、機械織りなのかということで、全てのディテールが違う。
イザベラさんがあるものを僕に見せてくれた。
それは、現在縫って製作をしている洋服と同じ生地をした、ところどころ縫われている小さなミニチュアのもの。
それは、裁断をした生地を使って、”どのようにつくりあげていくのがベストなのか”ということを様々な仕様で試すためのものなのだ。
衿周り、ポケット、生地端の処理、、、、
いろんな細部のディテールが試されていた。
それは、縫う糸の種類、色、縫製の方法、処理の方法。
それら全てが何通りも試されていたものだった。
イザベラさんに質問してみたところ、一着の生産でどれくらいの時間がかかるのか計ったこともないし、分からないそうです。
もし、仮にIsabella Stefanelliの洋服に”サンプル”が存在し、そのサンプルに則ったものをつくるのであれば、時間を計ることができる。
しかし、そうではなく、Isabella Stefanelliの洋服は、一着一着が違うオーダーになる為、それぞれ縫製仕様が異なり、全部違うつくりになる。
だから、一着にかかる製作時間なんて分からないそうです。
同じ形でも、イザベラさんが頭の中で考えたり、その生地の残りで、最適な方法を追究していき、その結果として、ベストな仕様で一着をつくる。
縫製を行なう縫い糸でさえも、通常の”縫製用の糸”ではないの。
“生地”と”糸”の「個性の適正」を考えて縫っていく。
表地が機械織りの生地であっても、生地から”糸を抜き取り”、それで縫うことだってIsabella Stefanelliにとっては当たり前のようにある。
非常に極まった縫製方法だと思う。
イザベラさんは、イタリア人テーラーだったお父さんの手伝いを始めてから、40年を超える洋服づくりの歴史があるけど、それでも実際に自らの手を動かして試す。
そうして、自分自身で判断をし、Isabella Stefanelliとして、ベストな方法を洋服に施していく。
実際に、一着に対して、手縫いをする時間も莫大にかかるけど、それをスタートする前にも時間をかける。
そして、手織り生地になると、もっと、もっとだ。
Isabella Stefanelliの洋服には、”手織り生地”の洋服と、”機械織り生地”のものが存在する。
あとは、手編みのニット。
手織りの生地は、その糸を決め、組み合わせや、配列、組織を決めて、全てをイザベラさん本人が組み上げる。
アトリエ内には、数名の女性縫製者さんがいたが、仕切りで仕切られたイザベラさんのプライベートワークスペースには、小さな手織りの機織り機があった。
Isabella Stefanelliの洋服は、完成すると「なぜこのディテールがこうなっているのか」という”理由”は、販売者には説明ができない。
また、同時に、イザベラさん本人も説明ができない。
僕が尋ねても「私にも分からないの。」と応える。
それは、まさに”本物のデザイナー中のデザイナー”であるからだ。
これまでの歴史の中で、世界中の名だたるブランドのデザインや、企画、パターンを行なってきた、超大物デザイナーだ。
それが、7年くらい前に、自分自身の名前を付けたブランドをスタートさせた。
今まで、数多くのブランドの中に入り、世界の洋服市場を導いて、牽引してきたデザイナー。
だからこそ、洋服に”こうしてる”とか、”こういう理由で”とかは、存在しない。
もう、そのようなこととは、”全く別の領域に存在する”。ということを非常に感じた。
ただし、生地を設計する時には、イザベラさんの心の中に漠然としたイメージは存在するそうだ。
頭ではない。”心の中”だ。
心の中にあるものを、素直に手を動かし、目で確認しながら、生地の設計をしていくそうです。
その作業は、まず、糸を決めることから始まり、生地を構成するための工程を忘れないようにするために、ビデオカメラで録画することもあるそうです。
心の中にあるもの、それを自分の手織り機で形にする。
これまでの経験からサンプルとなる生地をつくっていく。感じるもの全てを生地に出していく。
自らが設計したものを忘れてしまわないように、記録はしているが、自分自身で設計する生地が”なぜ”そうなったり、服が”なぜ”そのような形になっているのかというのは、イザベラさん本人も分からない。
Isabella Stafenalliの洋服が出来上がってくる理由は、本人も分からない。
“イザベラさん自身”
と
“自分の手を動かしてつくっている目の前のもの”
この2つがマッチングした時に、、、
“Isabella Stefanelliの洋服”は完成するそうだ。
普段は、どう設計しているのかを記録するために、ビデオで撮ったり、ノートに記録するそうだが、最近では、生地の組織図を記録するためのアプリが出たそうだから、時折そのアプリも使ってみてるって言ってた。
忙しい合間を縫って、英語をまともに話せない僕にとても丁寧で分かりやすい英語でいろいろなことを教えてくれた。
そうしてる内に、とっくに昼を過ぎていた。
1月のパリでは、展示会を走り回っていたから、毎晩フラフラのヘロヘロだった僕は、ホテルの目の前のスーパーでテキトーに買った冷たいご飯ばっかりをエブリデイで食べていたんですけどね、イザベラさんがカルボナーラをつくってくれたの。
ちょっと待ってて。って言って、スーパーまで材料を買いに行ってくれて、つくってくれた。
もともと食べることには、大きな拘りはないんですけどね、一週間以上大したものを食べてなかった僕は、そのカルボナーラが途轍もなく身に沁みた。
温かくて、もの凄く美味しく感じたの。
ちなみに、僕も岡山のソウルフード。キビ団子を買ってお土産で持って行ったんですよ。日本ではどこでも売ってるけど、さすがにイギリスにはないだろうって思って。
ピンク色のパッケージで、個包装の全部に桃太郎とか、キジとか、猿や犬が描いてるもの。
そしたら、イザベラさんが「とっても可愛い!」って喜んでくれてた。多分。
イザベラさんに色々なことを教えてもらったし、それをこのブログで写真付きで紹介したいな。って思ってたんですけどね、イザベラさん本人の意向があり、このブログで公開オーケーなのは、これだけ。
Isabella Stefanelli アトリエの屋上からの風景。
この場所で、Isabella Stefanelliの洋服はつくられる。
現実ではないような、”夢のような感覚”。
憧れとかそういうものとかだけではなくて、ロンドン滞在は、とても短かったけど、パリともロンドンの他の場所とも全く違う空間。
例えば、山内の山内さんのアトリエは、緊張感に感じられるような、一本の糸がピンと張っているような感覚がある。
イザベラさんのアトリエは、もちろん緊張感はある。洋服づくりの現場だから。
常に機織り機の音はするし、常に縫製者さんが手を動かしている。
ただ、イザベラさんが実際に生活する場所、洋服をつくる場所という、
“人生の場所”。
イザベラさんはとても温かく、心優しい方。
そのイザベラさんの温かさが”この場の空気”、”場所”、”空間”をつくっていると感じた。
洋服には、”つくり手が宿る”と思うし、つくり手の”人間性が宿る”。
それをIsabella Stefanelliのアトリエで感じることができた。
また追って、洋服の紹介をさせてもらいますね。