激ヤバカバーオール "tilt The authentics"

この秋冬シーズン、最も楽しみにしていたものの一つを紹介させてください。 僕の中では、もう2月頃から皆様に紹介したいと思ってたから、満を時しての登場です。 tilt The authentics(チルト ザ オーセンティックス) 2018年の秋冬シーズンからブランドデビューし、そのタイミングから一緒にやらせてもらってるんですが、今でも覚えてるデビュー当時。 その頃から現代のファッションシーンでもてはやされるような見た目の分かりやすさはなかったけど、当時から確実に実直な洋服をつくっていたんですよ。 このブログでもこれまで何回も書いてきたけど、忘れもしない4年程前の雨の日の渋谷の雑居ビル。 そこで初めて会ったのがスタート。 デビューの時からクオリティの高さを感じたんですが、それから3シーズン目には飛躍しましたね。 洋服のクオリティが。 ただね、7シーズン目になる今回。 ステージ変わったね。 間違いなく。 当店でも取り扱いをする洋服は、年々ハイクオリティなものをより精査していってるんですが、そのメンバーの中でもトップクオリティに君臨した。 と思ってる。 まあ、取り扱いをさせてもらってるブランドさんはみんなどれも素晴らしいものをつくってるから、極端な話、目を瞑って服選んで、手にとってもらっても充分に満足してもらえると思ってるくらいなんですけどね。笑 その中でも誠実に洋服に向き合ってつくられた、魂の息づかいが聞こえる、"手の切れるような"洋服が登場。 みんな身震いして。 今回の。 tilt The authentics Denim Like Latine Sprit Raglan Coverall fabric _ Hi Count Cotton Latine material _ Cotton 100% color _ Green Cotton size _ 1,2,3 ※完売致しました このカバーオール。 僕はクセで展示会に行ったときにすごく心に突き刺さり、感動すると、同じものばかりを何度も何度もウロチョロして見る習性があって、同じものの写真ばかり撮っちゃってるんですが、今回まさにそれ。 ただ、ブランドのこの後登場してくる洋服もかなりのシロモノだから、これがキャンプテンでエースで4番ってわけじゃないけど。 まあ、でもホームラン王と打点王と首位打者と盗塁王とゴールデングラブ賞をとってるレベルって思ってもらえたら良いです。これ。 何が、やばいか。 生地、縫製、パターン、付属、狙いが超優秀。 まずは、生地。 このカバーオール。 名前がデニムライクラチネっていうのが付いてるけど、そのまま、デニムのようなラチネって思ってください。 そう考えると、デニムって表と裏で色が違うじゃないですか。 このカバーオールは、一枚の生地を表と裏を使い分けて構成されてます。 通常、デニムは、、 ・経糸に、ロープ染色されたインディゴ染料による"中白"状態の単糸 ・緯糸にブリーチされた晒し色の単子 が使われ、2/1もしくは3/1の綾織りで織り上げられているというのが定義。 だから、表裏にそれぞれの色糸が大体7:3の割合で見えるのが特徴です。 僕、こう見えてジーンズソムリエ持ってるんで。ジーンズソムリエ。 滅多に使わないけど。 今使った。 まあ、そんなことは置いておいて、このtilt The authenticsが使う、ラチネ生地はそのような見え方と少し近い。 だから、表からは少し濃い独特なグリーンが見える。 でもね、その糸づかいが素晴らしいの。 激ヤバ。 この生地、、 ・経糸にインディゴ染料が濃い状態で長年の時間を経て、黄変(おうへん)したような色を再現した、先染め反応染料による双糸。 ・緯糸に、ななな何と、一切、染めていない、無染色のオーガニックコットンの、しかも、 "緑色"の双糸が使われてる。 通称、グリーンコットン。 ナチュラルカラーで目を疑うかのような美しさのあるグリーンの色合いのグリーンコットン。 それの綾織りの「変わり織り」組織である"ラチネ"で織り上げてる。 まずは、経糸から。 経糸は、先ほどのようにインディゴ染料が見事に黄変して、グリーンに変わったような色合いを目指してる。 しかしながら、素材はコットン100%。 通常、コットンというのは、直接染料と言って素材に対して、そのまま直接的に色を付けて染めるものが中心なんですよ。 でも、これはそれでは色合いが再現できないし、今回のtilt The authenticsの中津さんの狙いはそこじゃないから、滅多にしない反応染料で染めてる。 これ、かなり色出し苦労したと思うけど、反応染料の方が化学的に色が素材に結合するからあからさまな退色が起こってこない。 そして、それを"双糸"。 先述の通り、通常、デニムという生地は、"単糸"という一本の糸だけで構成されることがほとんど。 でも、これはそうじゃないの、双糸。 しかもかなり細い糸を双糸にしてるから、かなりきめ細かい。 それに対して、緯糸ですね。 こちらも先述の通り、激レア、生まれた時から緑色のグリーンコットン。 こちらも双糸。 ただね、中津さんがいうにはグリーンコットンでつくられてる糸で、"双糸"規格のものって存在しないそうです。 だから、つくった。 撚糸から企画して生地を製作したのがこのラチネ。 この経糸と緯糸が双糸であるっていうことはこの生地にとっては途轍もなく重要なことで、これが単子だったら全然違う、カントリームード漂うものになっちゃう。 そうやってつくられた、世の中に存在しないtilt The authenticsのオリジナル生地。 そして、この生地を製織したのは、毛織物の産地である愛知県。 "山栄毛織(ヤマエイケオリ)"。 当店では、これまで葛利毛織さんの名前は出してきましたが、もはや日本の毛織物のツートップじゃないかな。 山栄毛織さんと葛利毛織さん。 それぞれ特徴があるそうですけどね。 僕も最近、毛織物を見ると、この二つの機屋さんの生地の違いが分かるようになってきたくらいだから。 そして、その山栄毛織さんが以前に誰もが知るヨーロッパのスーパーブランドの生地をつくっていたアーカイブ見本があり、そこから着想を得たのがこの生地。 結果的に全然違うものになったみたいですけどね。 コットンだから僅かに毛羽立ちが顔を覗かせながらも、誰がどう見ても異常なくらいキメの細かい表面。 そして、これが裏。 黄変しグリーンに変わったインディゴの下から姿を見せるのは、自然なカラーリングでの"グリーンコットン"。 こう見ると、この手の一般的な綿織物とは全く違う、組織の目の細かさが感じられると思う。 だから、 こう見て。 これがこの生地をマイクロスコープしたもの。 糸がギュッと締まり、双糸づかいで無理のない毛羽立ちがありながら、しっかりと目が整ってるのが分かると思う。 比較として。 これ。 これがデニム。 ちなみにこのデニムは、COMOLI。 同じ倍率なのですが、全然目の細かさが違うし、しかもこれは単糸。 上のtilt The authenticsの生地と比べると、デニムというものとキメが別次元なのが分かる。 まあ、ただ、このCOMOLIのデニム、かなりのクセがありますけどね。 生機だし、単糸だけど、製品洗いしてるからかなって思ってたんですが、かなり納品時にオンスのワリに硬いなって思ってたんですよ。 これ見たら理由が分かった。 経糸がかなり強撚なんですよね。 だからか。って思った。 まあ、小森さんに確認とってないけど。多分そうだと思う。 これ、tilt The authenticsの裏。 白っぽく見えるのがグリーンコットンの双糸ですね。 通常は、綾目が一定方向に進んでいくんですが、これは途中で方向転換してる変わってる組織ですね。 でも、まあ、裏もやはりめちゃくちゃ整ってる。 ちなみにこれCOMOLIのデニムの裏です。 ガンガンワンウォッシュして毛羽立ちが溢れんばかりに出てる表面とは違い、少し毛羽が少ない印象ですね。 そして、綾目は一定方向。 このデニムはライトオンスなので、比較的糸は細い方ですが、それでもなお双糸であるtilt The authenticsの目の細かさが際立ってる。 岡山ではなく、毛織物の山栄毛織さんでつくってるからなんですかね。 すごく独特。 tilt The authenticsのラチネ。 そして、双糸でかなり目が詰まってる生地なんですが、着てみると超軽量。 よくあるカバーオールのカサっとしてる感じもないし、綿100の変わり織りなのにとても滑らか。 あと、カバーオールなのに、とても端正な顔付きしてるじゃないですか。 これ、生地ももちろんだけど、tilt The authenticsがブランドとして"ステージ変わった"って言ったのは、理由がある。 縫製。 "マーヤ縫製工場"。 このマーヤさんが素晴らしいんですよ。 今シーズンからtilt The authenticsの洋服を多く縫ってるのが、東京のマーヤさん。 シャツ類は、埼玉県のファッション泉の水出さんですけどね。 半年前にサンプルを見たときに驚愕しました。 生地はもちろん、この縫製レベル。 どこをどう見ても美しくとても整ってる。 もの凄く時間をかけて、文字通り"手をかけて"丁寧に、立体的に縫い上げられてるのがとても感じられた。 そのマーヤさんを取り仕切るのは、中津さんや僕と同世代の菅谷さんという方だそう。 僕たちはまだファッションの業界では若いし、これからの世代ではあるのだけど、中津さんに聞く話、とても縫製という技術職に向き合って、もの凄く情熱を持ってやってる方だそう。 縫製工場も機屋さんもその周りのいろんな仕事の方が洋服業界には存在しますが、やはり難しいことにトライし続けて、乗り越えて、熱意を持って仕事に取り組んでる若い人って、業界の川上ではほとんどいないですからね。 僕はtilt The authenticsの中津さんを通して知りましたが、これからバンバン紹介できると思います。 そのマーヤさんの縫製技術、舐めるようにご覧ください。 どんな生地を使っても活かすも殺すも縫製。 カーブが多用されたポケットも完璧なコバステッチ。 前立てからの裾へのラウンド、直線、完璧。 袖口には開きがないのですが、美しいステッチがある。 表に見えていたのは三つ折りの抑えのコバステッチ。 衿裏に備わる水牛ボタン。 めちゃめちゃ立ってる。 両方見るとこう。 フロントの20mmの本水牛も。 浮かび上がってる。 そして、このカバーオールは上衿にはステッチが露出しませんが、衿を後ろからしっかりと支える月腰が備わります。 ポケットの形状に見事に添ったコバステッチ。 カンドメの位置もズレることなく、完全体。 裏。 これ見て。 度肝抜いて。 あまりにも美しい裏側です。 このカバーオール、縫製に関しては、「本縫い」と「袋縫い」が箇所によって使い分けられています。 さっき見てもらっていたのが主に「本縫い」箇所で、表にステッチが露出します。 身頃や袖付けなどは全て「袋縫い」で仕上げられています。 これにより、ステッチが出るとこと出ないところが明確に分かれるので、洋服にかなりメリハリが効くと思ってる。僕は。 どこを見てもとても綺麗な袋縫い。 最近、袋縫いで縫製されてる洋服をあまり取り扱ってなかった気がするのですが、このカバーオールの袋縫いの精度は、これまで見た中でNo.1。 角度がキツいバックのラグランの曲線もモーマンタイで縫ってる。 これホントすごい。 物凄い実力を持ってることがビンビンに感じられる。 tilt The authenticsや山内などこのレベルの縫製でつくられた洋服を皆様に紹介できるのがとても嬉しく感じますね。 そして、tilt The authentics、生地や縫製だけじゃない。 洋服の形、つまりよく言われる"シルエット"という面でもとても美しい。 このような上物で重要項目なのが、肩周りだと思ってる。 サイドネックから肩、袖にかけてがとても大切。 あとは脇がもたつかないこと。 このどれもが、 ウルトラレベル。 フロントはセットインスリーブ。 対して、 バックは角度の急なラグランスリーブ。 更に、そこからグッと削られて袖口に向かう。 そこの写真撮ってないけど。 肩周りは稼働を考えたゆとり分量のあるスプリットラグランで、動作時のつっぱりは皆無。 それに加え、脇下の無駄を排除して脇に余計な生地が余らず、スッキリと。 見事になだらかで丸みを持たせながら美しく肩から落ちる袖。 パターンだけが優秀でもダメだし、このパターンを活かすのも縫製の技術職。 全てが神業で合致された洋服です。これ。まじで。 そして、 これ。 二週間ほど着て洗った、僕のやつです。 カバーオールでありながら、やり過ぎてない類まれなラグジュアリー感が漂ってたから洗うの躊躇ったんですけどね。今回ばかりは。 でも、洗ったら洗ったでこれまた気に入ってます。 これだけの生地や縫製ですからね。 洗ったらまたそれが際立ってきたように感じてる。 全体的に膨らみが出ましたね。 あとは、緯糸の裏のグリーンコットンが表によく見えるようになった気がします。 ラチネの組織もよく見えますね。 この灼熱の中、店内はかなり冷房を効かせてるから着てました。 生地も縫製もかなりやり切ってるカバーオールだけど、でも見た目に過剰じゃないんですよ。 だから、あからさまじゃないし、出かける時にはどこへでも着ていけると思う。 それもtilt The authenticsの洋服の良い点だと思いますね。 あまりにデザインが強すぎたら場所選んじゃいますからね。 まあ、そもそも今回のこのカバーオールはカバーオールだから。 でも、これだけしっかりとつくってくれているので、どこに来て行っても全く恥ずかしくない洋服だと思います。 こういうの好きなおじさんの方に。 これ、僕も展示会の時から感動して、自分で着てたらもっと感動したので、ブランドで持ってる在庫全部もらいました。 それでも豊富に数があるわけじゃないんですけどね。 あまりにもよくできてるからお好きな人は見てみてください。 このカバーオールは、8月1日(日)の12時から店頭で発売しますね。
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