1年振りの"絹紡糸100"ニット

明日の22日(土)より、複数の取り扱いブランドの新シーズンが始まります。 Irenisaは、この春夏コレクションのフルラインナップが全量スタート。 これまで何度か展示会に行ってきたけど、やっとこのタイミングで一緒にやれることになったHERILL。 tilt The authenticsのまたレベルアップした洋服や、COMOLIやA.PRESSE、Graphpaperのラインナップが明日から見てもらえると思います。 そして、今日紹介するのは、ちょうど一年前に初めて製作をしてもらい、その頃から着ていて、PETROSOLAUMのブーツ同様にあまりにも感動したから、今回もカラーリングだけ変えてつくってもらったニット。 FROM 徳島。 MOTHER HAND artisanのニットです。 でも、秋冬シーズンのものとは違う。 秋冬は、スーパー100の繊度のウール75%に、アンゴラ兎の毛を25%の手横編み機のセーターを軸に展開をしてるけど、春夏のこの時期のものは違います。 これは、2021SSシーズンに初めてつくったもの。 そのニットの特殊性というか、いろんな難しさというか、このニットのそういう側面を許容してくれて、そういうお客様方にお渡しすることができ、そういうのが好きそうな店舗のみだけに声を掛けて展開されるシリーズ。 素材は、シルク100%。 でも、そのシルクの中でも、 "絹紡糸(けんぼうし)"が100%で構成をされたニットです。 僕は、このMOTHER HAND artisanのニットに出会うまで、絹紡糸100%のセーターは出会ったことがなかった。 それまでは、春夏シーズンはシャツばかりを着るスタイルだったのが、このニットに出会って、変わったの。 洋服屋を運営していながら、自分自身でもこうやって、知らなかったもの、知らなかったことに触れて、それで洋服に感動できるってことはそうそう多くはないんですが、これは自分の中でとても大きな変化だった。 超絶的にポジティブな衝撃を受けたニット。 それが、"絹紡糸100%"のニット。 まあ、そもそも、絹紡糸(けんぼうし)っていうのは、 シルク繊維ではあるのですが、シルクには大きく分けて4段階ある。 ・生糸(きいと) ・絹糸(けんし) ・絹紡糸(けんぼうし) ・絹紡紬糸(けんぼうちゅうし) この4つ。 シルクとは、虫(蛾)が" ∞ "みたいな感じで動きながら、口から吐く糸。 それに煮繭とか、精錬とか、いろんな加工をして繊維として取り出すのが"シルク繊維"ですね。 最も自然な状態が、生糸。 いろんな言われ方して、ローシルクとかワイルドシルクとか言われてるけど、煮繭を行い、製糸して、蚕のシルクの塊をほぐして、繊維状にしたもの。 だから、不均一でムラも多く、野生的で生地になると鈍い見た目してる。 次に、絹糸(けんし)。 一般的に多くの方がパッと思い描くのがこの状態。 絹糸は、生糸に"精錬(せいれん)"という加工を施す。 生糸は、タンパク質が主成分で構成されている繊維なのですが、セリシンという物質で覆われてる。 その生糸を精錬することによって、セリシンを取り除き、内部のフィブロインという物質が剥き出しの状態にするんですよ。 これが、一般的に、美しい輝きと肌触りのあるシルクの状態。 「絹糸=フィブロイン」って思ってもらったら良いかも。乱暴だけど。 で、このフィブロインが断面が三角形状をしてることもあり、虹と同じプリズム効果で、すごく輝きがあるように見えるんですよ。 でも、"繊維の女王"と呼ばれるシルク。 扱いが繊細で、大変ということで"女王"という意味合いが付く。 この絹糸が使用されている洋服で言うと、ウエディングドレスとか、海外セレブがパーティで着てたりするドレスが使われてるかな。 だから、そういうものって一度着たら高額クリーニングだし、しかも耐久性は低いし、日常使いされる前提でつくられてないじゃないですか。 繊維としては、すごく高品質なんだけど、洋服として考えた時には、適していない。 そこで、次に登場するのが今回の。 "絹紡糸(けんぼうし)"。 これヤバい。 どんな洋服なのかにもよるけど、僕はシルクではこの絹紡糸が好き。 先ほどの絹糸って、かなり細くて長い状態なんですよ。 その絹糸を短くカットする。 その短くカットされて、短繊維状態にし、糸に紡績したもの。 これを"絹紡糸"と呼ぶ。 絹紡糸の特徴は、シルクの繊維が持つ特徴が最大に活かされたまま、デイリーユースすることができるメリットがあること。 でも、高額。そして、手入れが少し手間がかかる。 ただ、洋服として着た時、特に今回の絹紡糸100%で編み地になったときには、着用者の方への恩恵はハンパないから。 あと、最後の段階の"絹紡紬糸(けんぼうちゅうし)"ですが、これは今回のニットの絹紡糸をつくった時の副産物です。簡単に言うと。 もちろん、その良さはバチバチにあるのですが、少し硬くなるのと、糸のムラができるし、鈍い見た目になる。 ちなみにシルク100%のニットだと、この絹紡紬糸のものがほとんどだと思います。 それくらい今回の絹紡糸100というハードルはとても高いの。 それを見事に形にするのがMOTHER HAND artisan。 MOTHER HAND artisan HUY material _ SILK(絹紡糸) 100% color _ WREN size _ 4,5,6 これ。 原料は、先述の通り、絹紡糸100%。 それを徳島で、永井さん夫婦が、"家庭用"手横編み機を使い、つくってる。 まあ、先に言うと、カラーリングはWRENって名前の付いてる色です。 "レン"か"ウーレン"か、読み方が分かんないけど、膨大な選択肢があるシルク糸のカラーバリエーションの中から、何度も何度も頭の中でシュミレーションし、グルグルグルグルまわって、まわって、 これだ! と閃き、永井さんにお願いをしたカラーリングです。 こういうものってね、編まれて完成したら、微妙に色が違うように見えるものなんですが、編んで生地になる前段階の、小さい糸の塊の状態で想像して、頭を駆使してイメージするんですよ。 で、今回、閃いた色合いが、これ。 カーキベースに、ブラウンとグレーが入った色合い。 これ、狙ってたところ。 でも、思っていた以上にブラウンが強く出てくれてるから、想像よりも遥かに点数高い。 密になった絹紡糸。 そして、この段階のシルクならではの自然だけど圧倒的な輝き。 これは繊維の中ではシルクだけだし、そのシルクでも、絹糸or絹紡糸のどちらかじゃないと生み出せないもの。 その光沢に加えて、超絶レベルでの肌当たりをお約束します。 これ着て、仮に肌へのタッチに満足してもらえなかったら、僕はもう二度と用意できる服がないくらい。 圧巻の滑らかさと、シルク特有の弱い静電気を持つことによる上半身への寄り添い。 そして、そして、フィブロインが露わになってることによる肌への親和性の高さ。 飲み物で例えると、ポカリスウェットを越えて、OS-1ですね。 これ着て、全員驚いて。全員。 まあ、素材のことはさっきも言ってる通りだけど、その糸を使ってニットにしてるMOTHER HAND artisanの永井さん夫婦がヤバい。 これ、神だね。神。 今の僕が知る限りでは、同じレベルのものをつくることができる人は、いないんですよ。 ニットで絹紡糸を100%使ってるものが全然存在しないのは、その生産の難しさから。 途轍もなく柔らかいし、工業的に量産は無理。 だから、ブランドとして何度も何度も何年も時間をかけてつくり、生み出した。 もうブランドとして10年以上、ニットだけをつくってる永井さん夫婦だから、その積み重ねたノウハウを全体に、最強に発揮してる。 もちろん、秋冬のセーターと同じように手横編み機を駆使して、生産をしてるんですが、素材がシルク100%で、インナーも寒い時期と違ってTシャツやタンクトップとかになるから、そのときには、素材とディテールのマッチングがエゲツない程に頂点に達するんですよ。 僕も昨年のものを6月くらいまでかな?着てたんですけど、常に超快適。 呼吸してくれるし、いつでも衣服内がパラダイス。 それが春夏シーズンの最も良いところかな。 編み地は、いつも通り天竺編み。 だから、生地端は特性上、カーリングするんですが、決して断ち切りの状態ではないの。 生地端もきちんと処理してある。 このベースとなるモデル、HUYは当店で取り扱いをする秋冬モデルとは異なり、首が高くなる設計のものなのですが、ネックに生地の切り替えによるリンキング(縫い合わせ)が存在しない。 だから、素晴らしい首あたり。 前身頃。 前身頃を編み進める時のアームホールによる、編み目の減らし、"減らし目"も健在。 肩で編み地の方向が切り替わります。 この編み地の方向を切り替えることで、着用感が更に向上する。 そして、一続きのまま、後身頃へ。 後身頃を編み進めると今度はアームホールがなくなってくるため、編み目が増やされる。 これが、"増し目"。 前から後まで、身頃は一切の切り替えが存在しないニット。 身頃脇と、アームホールだけ。 その必要な2箇所の部分だけのリンキングで、極限までシームが排除された設計。 それは、袖も同様。 袖は、アームホールの箇所と袖口って幅が違うじゃないですか。 通常は、先に編んだ編み地をパターンに合わせて裁断し、それを縫い合わせることによって、アームは形成される。 しかしながら、MOTHER HAND artisanのニット、型紙を使わず、頭の中に設計があり、その設計通りに編み進めていく。 だから、肩口から袖口にかけて、シェイプが効き、細くなってくるのですが、、、 これ。 内袖の拡大。 編み地の組織がどんどん中心に行ってるのがわかりますかね? 通常、この裏には、縫い合わせのリンキングが存在する。 これ、内袖の裏です。 このように超フラット構造。 袖を形成する際に、編み目を一つずつ減らしていくことでシャープなアームをつくってる。 袖裏にもシームが存在しないから、縫い合わせのゴロツキはもちろんない。 これが素晴らしい着心地を実現している一つの要素。 裏。 アームホールは、袖と身頃を全て、手作業でのリンキング。 つまり、全て手縫いです。 着用時に腕の稼働を制限せず、動かしやすくするために、アームホールは、身頃よりも、袖の方が編み目の数が多くつくられるのですが、それを手縫いで見事に不自然にならないように振り分けてる。 とても気の遠くなるような作業を経て、袖と身頃が一体化される。 表は僅かに毛羽立ちがあるのですが、表に比べて裏の肌に当たる方が光沢が強い印象です。 自然光が入る場所で撮ってるんですが、絹紡糸が自然に光って光って仕方がない。 身頃脇は、リンキングの道具を使って縫い合わせられています。 Tシャツなどにある丸胴の、脇に縫い合わせがないものと比較して、洗濯時にも斜行が起こりづらいのでメリットがありますね。 さっきも言ったけど、首にも過剰に当たるものが何も存在しません。 裏のどこを見ても美しいニット。 隠しきれない光沢。(裏) これが表。 気持ち裏の方が光沢が強い気がするんですけど、表も素材ならではの誰が見ても上質な輝きが漂ってる。 裾、袖、共に端は編み目が太くなり、そのまま処理してカーリングさせてる。 バック。 リブの切り替えもないし、パッと見た目はシンプルだけど、その分、素材やつくりのレベルが際立ってると思いますよ。 あとは、色。 素材の上質さやつくりの細かさは人間超えてるレベルだけど、色の好き嫌いはどうしてもそれぞれの方の好みですからね。 なんとも言えないけど、世の中にあんまり存在しないカラーリングでお願いをしました。 カーキとブラウンとグレーがそれぞれ組み合わされた色合いだから、漢の方は好きな人いるだろって信じてるんですけどね。 どうやってコーディネートするかは任せますけど。 ニットのレベルはハンパないから。 そして、このニット。 絹紡糸のシルク100%ですが、MOTHER HAND artisanですからね。 もちろん家庭での洗濯オーケー。 ただね、ここからは少し注意して。 まず、シルクは特有の静電気があります。 だから、着るときや特に脱ぐときはゆっくり、ゆっくり脱いでください。 まあ、バチバチって電気が起こるのが好きな人いたらフツーに脱いで。 でも、この静電気が着心地にもつながってるから。 あと、洗濯はいつも通り、ニットに付属する下げ札が付いてるんですが、それの通りの手洗いがお勧め。 と言いながら、洗濯機に僕も入れてみたけど。 正直言って、ネットに入れて洗えば問題ない。 ただ、洗濯機の場合は自己責任でお願いしますね。 手洗いでも洗濯機でも、ウールほどは縮みは出ません。 ほとんど縮まないと思ってもらって良いかも。 ただ、シルクはどうしても水に濡れて乾くとシワになりやすい特性を持ちます。 そのため、洗濯して乾くと、素材が柔らかいからか、"ヨレた"ように見えます。 本当にヨレてしまってるわけではないので安心してもらえたら良いのですが、その見た目が気になる方は一瞬だけ、アイロンスチームをあててあげてください。 そうすれば一発でパシッと元通りになる。 まあ、僕はアイロンしたり、しなかったりだけど。 自分で着ている昨年のものは、もう10回くらいは手洗いや洗濯機で洗ってるけど、それによるネガティブポイントは感じないですね。 でも、洗濯後のヨレたかのように見えることだけ起こるのは、確実なので、どうしてもこのような"特殊性"を持つ洋服ですからね。 そこに許容できる方でお願いします。 着心地とかはね、誰もが感動してくれると思うから。 昨年のモデルは、このような懸念材料があったので、店頭で直接お話をさせて頂ける方に手に取って頂こうと思い、オンラインストアでの販売はしませんでした。 ただ、自分で一年間着て、これは当店を選んで頂ける全国の方々であれば問題ないだろうと判断をしたので、今回はオンラインストアにも掲載をしてます。 これまで春夏時期は、シャツばっかり着てた方にも良いかもしれませんよ。 The CLASIKとのシャツとこのニットは上半身喜ぶセットです。 ちなみに、The CLASIKのシャツは、サイズ46が残り一着、サイズ48が二着のみのストックになってるので、それも検討してもらえたら嬉しいです。 このニットを含め、明日、22日(土)からは、いろんなブランドの新シーズンがスタートするので楽しみにして見てください。
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