"山内" MILITARY COAT

思っていた以上にこのブログをご覧頂いている方がいるようで嬉しく思っています。 先日、トレンチコートのブログで、敢えて使ったナンバー2というワードを皆さんが良いのか悪いのか認識してくれていたのですが、決して「2番目」という意味合いではありません。

 

 

僕の今まで見たコートのつくりの中でということです。

 

 

そして、今日紹介する、この洋服のためにとって置いた言葉。

 

 

今までの経験で出会ったコートの中で、ナンバー1。

それは、デザインとか好みとか、そういう話ではないので、そこは前提として、念頭にお願いします。

 

 

でも、世界中にいろんな洋服があると思いますが、ここまで「つくり込まれた」コートは見たことがない。

"山内"のブランドの洋服づくりが溢れる程に、惜しげもなく注ぎ込まれたコート。 3way ミリタリーコート。

先日お話をさせて頂いたトレンチコートも3way。

一着+一着で一着になってる。 これも同様です。

 

 

ちなみに、その3way トレンチコートは、完売致しました。

今日の3way ミリタリーコート。 これまでこのブログでいろいろな洋服を紹介してきましたが、もはやこのブログで全てのディテールを網羅することは困難を極めます。 というか無理。 全部書こうとしたら家に帰れなくなってしまうので、全部はやめとくことにしますね。

これ。

これは2着をドッキングさせた完全体状態。

 

 

着ると、思わず唇を噛み締める程のコートなので、噛み締めてます。

写真の光の関係上、微妙な色に見えますが、実物はかなり黒に近いkhaki。

分解。 これは通称ライナーです。

単体での着用時期は、秋と冬に適しているでしょう。

 

 

生地に関しては、こちらのコートはライナーもアウターも同じものを使用しています。

山内を代表するオリジナル生地。 高密度二重織りコットン。

 

 

全体に広がるその特有の凹凸と随所に入る折り曲げられたようなシワ、そして乾いたような質感がすごく特徴的ですね。

すごく深みのある生地ですよ。

もうこの生地見ただけで、どれくらいの手がかかっているのか多少は感じてもらえるんじゃないかと思う。

こう見るとざらつきがあるように見える生地。

 

 

そしてそれを組み上げるのは、上質で仕立ての良いドレスシャツかのような縫製。

目を疑いますよ。 もう点なのよ。点。 ステッチが。 アウターなのに。

このライナーの裏地はこれ。

コットン86%、ヤクウール14%のボア。

フードの先っちょから裾まで。

滑りが悪くなるので、袖裏には配置されず、その代わりに袖裏には薄い中綿が装備されてます。

 

 

このボアは、今治産のパイルとなります。

86と14という特異な混率ですが、これにより格段の暖かさが得られますね。

そして、そのボアを小豆島のオリーブで染めてます。 素晴らしい色合いと優しさ溢れるタッチが健在。

両玉縁仕様の内ポケットが左右に配置。

ボタンホールのかがり目も細かくアメージングな仕上がり。

フードも何枚で構築されてるんだってくらい複雑で立体的な形状。

もちろん袖は立体的な二枚袖仕様です。 そして、

袖先にはリブが配置されます。 このリブは、「山内リブ」と称される、驚愕のパーツ。

ほら見て見て。

リブの溝、一つ一つにステッチが入ってる。

 

 

通常は、ウール、もしくはアクリルのリブで袖口を切り替えることが一般的なのですが、山内さんはそれを良しとしてないの。

この表地はコットン100%なんですけど、そこに異素材のリブがくることがNG。

だから、リブに表地にあった生地を上に乗せ、そして溝の一つ一つにステッチを施していく。

果てしないくらい気の遠くなる作業。

 

 

でも、これにより着る人には大きな恩恵が。

まず、肌触りが格段に良くなります。

そして、リブが立ってるとでも言うのかな。

すごく丈夫だし、単なる洋服の一つのパーツという枠で納まらない。

ライナーでも既にとてつもない雰囲気を放ってる。

そして、

このライナー、

縫製者。

 

 

"山内"デザイナー、山内さん。

 

 

久し振りの登場ですね。

山内さんはコレクションの中でも特に細かい手が必要となるものを縫う。

シーズンを象徴するアウターは縫ってることが多いですね。

これが通称、アウター。

アウターは、単体での着用時期は春と秋ですね。

ライナーとアウターを組み合わせれば、真冬対応です。

ミリタリーコートっていう名前がついてる分、やはり見た目はミリタリーしてますね。

先ほどもお話したように表地は、アウターとライナー共に同生地を用いてる。 山内を象徴する高密度二重織りコットンですね。 フロントにはフラップ付きのポケットが4つ。

ただ、このフラップポケット。

フツーと全然違うのよ。 想像の範疇を超えてる。

超構築的フラップ。

 

 

通常フラップポケットは二枚の生地を使い、ボタンホールをぶち抜きで開けることが多いと思います。 もしくは、ドットボタン(スナップボタン)を打つ。

でも、これは表にボタンが露出しないように、合計で4枚の生地でつくられています。

そのフラップポケットの縫製も目を疑うレベル。

めくらないと見えない箇所だけど、そんなとこまでこの縫いピッチ。

恐ろしいほど生地の端のキワキワを走る無数の点。

 

 

 

しかも、この表地、実物を手にしてもらえたら分かるのですが、高密度な分硬いんですよ。

それは着用者にとっては、ウルトラヘビーユースして柔らかくしていける楽しみはありますが、縫製するときには縫うだけでも至難の技。

それを見えないところまでこのレベルで仕上げるのは神技ですね。

そして、

そして、

アウターですが構造はこうなってる。

 

 

フロントにはエクセラファスナーと本水牛ボタンが平行に。

ボタンは大きく、輝きのある本水牛が手付けにより、生地からグンと浮かび上がってる。

このアウター、、、 内側もすんごいんですよ。

これは右身頃の見返しです。

 

 

小さく見える黒く丸いものは、先ほどの本水牛ボタンを支える、本水牛の力ボタンです。もはやアホ。

 

 

その横にある縦方向のボタンホールは、ライナーを取り付けるためのホール。

そもそもライナーは、フロントがボタンオープンだったじゃないですか。

そのボタンをそのままアウターとドッキングさせるときに使う。

 

 

大体この手のライナーとアウターが両方ある洋服は、ドッキングさせるためだけに使ったりするファスナーやボタンが多いと思う。

 

 

でも、それを2着を組み合わせた状態でも、1着で着るときでも意味を成すこの構造は他のアウターではあんまり見られないんじゃないかな。

そもそもその両方を機能させるためのパターン設計は人間超えたかな。山内さん。

これは左身頃の見返しです。

右からスラッシュボタンホール、エクセラファスナー(逆開)、と謎の箇所。

ボタンホールとファスナーはアウターの開閉用。 その左に位置するもの。。 これは、ライナーを取り付けるためのもの。

めくるとこうなってます。

 

 

このボタンは、ライナーのボタンホールに取り付け、ドッキングさせるための。

もちろん、本水牛手付け。

 

 

更に、その左に位置する縦型のボタンホール。

これは、ライナーを取り外し、アウターを単体で着るときに、ライナー取り付けのためのボタンをしまっておくため。 感激。 ここまでの思いやり仕様があるとは思いつきませんでしたね。

このようにしておける。

もうこの複雑さは理解するのに困難を極める。

だから、解説してるんだけどね。

 

 

まだ、あるよ。

フードのドローコードは、金属チップでの処理ではなく熱圧着。

洋服との違和感を無くすため、極力主張のないものにしたとのことです。

袖口。 当然の二枚袖だったり、とにかく情報量の多い袖口ですね。

フィッシュテイル。

まさに一直線。

とことん均整のとれた鋭角に仕上げられてる。

めくるとこんなところに丁寧な丁寧な、額縁仕立てが隠される。

裏の黒い生地は、ライニングです。

薄い生地が総裏の仕様で施されています。

凹凸のある乾いたような生地にところどころ入る、折れたようなシワ。

これは2020年最初に販売をしたシルクのシャツでも共通なのですが、特殊な染色方法で筒の中に入れる加工をするそうなんですよ。 それにより刻まれるシワ。

 

 

そして、この生地表面に現れる凹凸なんですが、二重織りによるもの。

表面の生地組織とその背面の生地組織とが異なる。

それが高温に触れることによって、縮率が違うから、その差によって生地表に凹凸が出現してくるもの。 表面的な軽薄さは微塵も感じられない、とても深みのある生地だと思います。

これ見ただけで、もう着続けた先にある極上さを想像せずにはいられない。

その先にあるこの生地のポテンシャル。

ここからの伸びしろがウヨウヨしてますね。

 

 

生地の奥深さ、

ステッチワークの細やかさ、

丁寧さ、

そして尋常じゃないくらい複雑な構造。

 

 

大体、結構構築的につくられたコートで全部のパーツの数は30〜40パーツ程度の数だそう。 でも、この3wayミリタリーコートはそのパーツ数、なんと97。

このパーツの多さは計り知れないし、その一つ一つをここまでのレベルで仕上げる。 日本の縫製に携わる男性で最も腕のある人は、デザイナーの山内さんだと感じてるんですが、その山内さんでもこのコートは縫うだけで丸々4日間かかるそう。

それによって形づくられたこのコート。

 

 

もちろん、プライスも相当。 この1月の時期のデリバリーだし、売れるか売れないかは分からない。 というかそこは一旦置いといた。 洋服を取り扱う人間として、お店として、このコートは取り扱うべきだと感じたし、気に入ってくれる方がいたらすごく嬉しく思う。

 

 

ただ、サイズ展開は3の一着のみ。

すごく限定的な展開だし、この時期っていうのも重々分かってる。

ちなみに予定より遅れて入荷。 ただ、ここまでで写真も見てくれたりしたら、この一着のコートでいろんなところを楽しんでもらえることは感じてもらえたんじゃないかと思う。

 

 

単なる「洋服」という枠ではないものだと思うし、ここまでの洋服が存在するんだって知ってもらえたらありがたい。

この一着のコートに僕は心を打たれたし、同じような人が一人だけでも現れてくれたら嬉しい。

というかこれを手にしてからがスタートだし、長い洋服人生の中で付き合ってくれたら良いんじゃないかな。 まだこのブログでは充分に紹介しきれてないし、実際に実物を見ながらだとご理解頂けることも多いと思う。

 

 

余程のもの好きの方は見てみて。

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