今日は、すごいものを紹介しますね。
"山内"のコレクションを事前に見ていた方は、知っている方もいるかもしれませんが、これまでのブランドの10年以上にもなる歴史の中でも、かなりのもの。
圧倒的なオーラを持つ洋服です。
何年か前に初めて登場した"二着で一着"となる、3wayドッキングコートというものがある。
その二着ともが、どちらも一級品で、一級品のアウターが二着重なり、ドッキングされることで、超完全体になるというコート。
これまでも当店では、ご覧頂き、それぞれを所有して頂いている方々がいるのですが、今回、ブランドのコレクションでは、それが超絶的な形となって登場。
それが、"泥染め"。
1300年以上前から存在すると言われる、日本古来からの"黒"と言われる、"泥染め"という染色技法。
世界三大織物の一つと言われる"大島紬"に使われる染色方法だ。
化学的な真っ黒ではなく、特有の茶色い色合いをした"日本古来の黒"。
それを奄美大島で50年続ける"肥後染色"という染工場で"生地"で行ったものを使っている。
ただ、このコートは、その"生地"で泥染めを行なっているということが、ウルトラハンパじゃない。
その理由は、コートの総パーツ数が100パーツ程にまで及ぶからだ。
洋服の一着を構成するのは、それぞれ、身頃や袖、見返しなどいろんなパーツが存在する。
ただ、そのパーツ数が100パーツ近くにもなるという洋服は、この世に他に滅多中の滅多に存在しない。
確か、93パーツあるって山内さん言ってたっけな??
それは、数年前に登場したモデルがそうだったから、もしかしたら今はもっと多くなってるかも。
大体、全ての洋服で最もパーツの数が多くなるのがコートなのですが、それでも、すごく複雑な構築に感じるものでも30数パーツ程だと思う。
そして、山内の洋服だから、加えて加えて、というような足し算のディテールをしているというワケではない。
このコートを成立させるために、必要なディテール、全てが集まった結果、100パーツ近くまでの数量に及んだというもの。
まあ、僕が思うに、"世界一細かい洋服"をつくってるブランドですからね。
世の中、スペック勝負のブランドが多いために、洋服に搭載されたスペックを伝えすぎることも良くないと、僕自身も思っているのですが、今回の山内のコートは、次元違うから。
もはやそういうのじゃないの。
スペックも突き詰めれば、誰にも追従できないようなものになる。
そして、それが、これほどまでに細かく、時間をかけて設計され、形づくられた洋服になった時には、それはもう圧巻。
途轍もないコートが出来上がっていますよ。
山内
コットンダブルクロス・3wayミリタリーコート
material _ MIX (COTTON,COTTON.LINEN,,,)
color _ SCRAP DORO MIX
size _ 2,3
※size2 SOLD OUT
これ。
当店では、サイズ2と3をそれぞれ一着ずつ取り扱いをしていましたが、既に、このブログで紹介をする前に、サイズ2をご購入頂いたお客様がいたので、サイズ3のみの在庫です。
写真は、サイズ3の写真。
当店では、現在山内の洋服は、ブログでもインスタグラムでも掲載していないのは、ハイブリッドコットンクロス・マウンテンコートというものと、ヤクシープパイル・ジップジャケットというものの2種類があるのですが、そちらは、また追って紹介できればと思っています。
そして、今回の泥染めのドッキングコート。
分離すると、、、、
これ。
表地は、山内の山内さんがこれまでつくってきたオリジナル生地を泥染めした"ライナー"が登場。
そして、こちらが外側。
こちらもライナー同様に、これまでのオリジナル生地を泥染めし、身頃や、袖、フード、袖口、見返しなどなど、それぞれ同じ泥染めが施されたものを繋いだもの。
先述の通り、それぞれが別々で凄まじいつくり込みをされたアウターとして使うことができるというシロモノです。
まずは、ライナー。
ライナーの方は、単品使いの際には、ショート丈になるので、身軽に動ける洋服だと思います。
ラグランスリーブで軽快に動けるのですが、身頃とフード裏には、山梨県のWATANABE TEXTILEさんというところでつくった、キュプラとアルパカの交織生地が備わります。
一つ、ボコボコと特徴的な生地組織のものが目を惹く生地が使われていますね。
これだけでも同じ泥染めなのに、素材によってコントラストが利き、凄まじい見た目してる。
この泥染めはしっかりと濃色に仕上げるために、複数回染められているものですので、泥染めの中でもかなり濃い色だと思います。
まあ、どこをどう見てもエゲツないほどの細かい縫製がされているのですが、ここも。
リブ。
これは、以前にはブランドの特徴として存在していたのですが、ベースのウールリブに、表地に合うようにコットンの生地を上に当て、リブの溝一本一本にステッチを入れていくという離れ技の仕様。
こういう箇所を見ると、"山内"がどういう洋服づくりをしているのかが一目瞭然だと思う。
このリブは、すごいんですよ。
着用時に、リブの肌あたりが全然違うのと、明らかにリブが丈夫になっているのを感じられるんですよ。
これは、確実に着用時には恩恵を感じてもらえる箇所だと思う。
これが裏。
先述の通り、キュプラとアルパカのボアです。
この写真だけを見ても、この"ライナー"がどういうレベルなのかを察知してもらえると思います。
裏側の前端の見返しという箇所に、両玉縁のポケットがあるのですが、その両玉縁でさえも、右側と左側で生地が違いますからね。
こういうところは、パッチワークと言えども、フツーにつくっていたら同じ生地にしてしまうそうに感じるけど、そんなのじゃないの。山内は。
そもそもこのコートは、僕は山内さんに全生産数を聞いているのですが、そのどれもが微妙に違うパッチワークです。
それはつまり、全ての生地を"コートのどの箇所に使うのか"というのを見極めて、一着分ずつ、一パーツずつ、"手裁断"をしているということ。
ランダムな使い方ではないんですよ。
だから、全国に僅かな数だけ存在する、全てのこのコート、それぞれの個性と思ってもらえると良いと思いますよ。
そして、こちらが外側ですね。
先ほどのライナーは、一枚での着用の際には、内側がアルパカボアということもあり、秋や冬に活躍してくれると思います。
対して、こちらのコートは、裏地がコットンポリエステルです。
ブランドでは、いつも裏地として使っている生地なので、一枚での着用の際は、春と秋に良いんじゃないかな。
二着をドッキングさせると、"真冬に敵なし"となりますね。
かなり重厚な着心地なのですが、寒がりな方にも充分に真冬に使ってもらえるものですよ。
外側のコートもハンパじゃない仕様してる。
ベースがモッズコートの感じだから、それだけでも結構複雑。
加えてそれに対して、山内の細かい設計。
今回のドッキングコートは、これまでブランドで登場してきたもの同様に、福岡県にお住まいの成清功一さんが全て縫っているのですが、ヤバかったらしいですよ。笑
一着完成させるのに、何日も何日もかかったんだって。
裁断ももの凄い時間がかかるし、縫製も並のものじゃない。
そして、今回は泥染めだ。
この"生地での泥染め"というのは、縫製の超名手である成清さんでさえ困らせたそうです。
その理由は、縫い進めていくと、針穴に"泥"が詰まってくるから。
山内の洋服は、縫う箇所がとても多く、運針のピッチも山内の細かい仕様指示がある。
そのため、少し縫っているだけで、ミシンの針穴に少しずつ"泥"が蓄積されていき、綺麗に縫うための糸調子が乱れてきてしまったそうだ。
山内の洋服で、縫製の乱れは許されない。
だから、針を新しいものに変え続け、とにかく、とにかく、時間をかけて、手間をかけて、丁寧に、丁寧に、成清さんが縫い進めたそうだ。
もうね、このコートには、その"向き合った仕事"のクオリティが溢れてますよ。
洋服であるのですが、洋服という枠組みだけではない、特別なオーラを纏ってると思う。
こういうものを"道具"として使う人生は、僕自身、とても尊いものだと思ってる。
フードも何枚ものパーツで切り替えられてるから、ちゃんと自立してくれる。
ネックも補強のステッチが入る。
フロントのフラップポケットも全てが僅かに異なる生地。
真っ直ぐなところは真っ直ぐ、尖るところは尖る。
全てのディテールのエッジが際立ってますね。
フラップポケット。
このフラップポケットも、"世界一細かいフラップ"だと思いますよ。
分かりますかね?
この重なり。
フラップの中に、もう一枚のフラップがある。
二枚のフラップにも見返しという裏生地が縫われてる。
それに、見えない内側にはきちんと芯地が貼られてるの。
つまりは、フラップポケットの箇所だけで、総数6枚の生地が使われてるんですよ。
ポケットって中にものを入れて、使うものじゃないですか。
ものを出し入れ、手を出し入れする度に、ポケットフラップにも負荷がかかる。
だから、とにかくそれも丈夫に仕上げるための山内なりの仕様ですね。
内側も複雑です。
コートの前を留めるために、ファスナーと水牛ボタンの2つが前端に付属します。
そして、ボタン開閉のスムーズさを優先して、ボタンホールは斜めに開けられています。
ファスナーは、ダブルジップ仕様です。
写真のファスナーの左側に見える4つの小さな力ボタン。
この4つのボタンで、ライナーとコートをドッキングさせます。
ライナーとコートは、左右の前端にそれぞれ4つずつの合計8つ。
フードに2つで、合計10箇所のボタンでドッキングを固定させる設計です。
まあ、それは実物を見てもらえたら構造をご理解頂けると思います。
左身頃側の前端。
右身頃側の前端。
こちらは、ライナーとドッキングさせるためのボタンホールが開けられています。
袖口。
調整可能。
バッキバキに綺麗に割れたフィッシュテール。
そして、このドッキングコートには、重要なことがあります。
それは、、、、
"返し縫いが存在しない"ということ。
これ、嘘だろっ。って思います。
まさに山内。
山内のコレクションの中でも、特に重要なピースには、縫い始めと、縫い終わりに行なう"返し縫い"という縫い糸のほつれが起きないように施す仕様がほぼ存在しません。
理由はただ一つ。
返し縫いをすると、"ステッチが二重になるから"。
"縫製"ということを突き詰める山内というブランドでは、そのようなことまでもとても重要視している。
だから、縫い始めと縫い終わりの箇所は、生地の裏から糸を引き出し、見えない裏側で手作業で糸を結んでいくの。
これ、"神ワザ"。
そうすることで、生地と縫製箇所とが、より一層綺麗に見え、細かさが際立つ。
こういうことを大事にするブランドだから、洋服に"宿る"ものがあると僕は思ってる。
誰もができない境地で洋服づくりをするブランドだからこそ、実現できる洋服があると思う。
そのような洋服は、必ず、人の心を動かすことができ、感動してもらえることができる。
こういう服って、素晴らしいものだと思います。
コートの裏側。
裏も圧巻。
当店では、現在はサイズ3のみの在庫です。
プライスもプライスなので、着用時にはかなりの重厚さを感じると思います。
この重さは、このコートには必要なことなんです。と山内さんは言ってた。
サイズ感は、少し大きめの3という感じです。
以前にブランドで展開をしていた時の4のサイズ感ですね。
分量もあるコートなのですが、長年の着用により本当の意味で特別な変化をしてくれ、それに伴ってコットンやコットンリネンの生地の落ち感も出てくるようになりますね。
そういう着心地や見た目の変化は、もちろん楽しんでもらえる。
これまで、当店で取り扱ったコートの中でも、生産の段階から考えても、全体の仕様の複雑さから考えても"極限域の洋服"だと思います。
ただ、だからこそ、所有してもらえた方には、このような洋服づくりの素晴らしさ、そこに"宿る"ものを感じてもらえると思います。
サンプルは、山内さんが自身で5日間かけて縫い上げ、更に、それに磨きをかけ、商品となるものは、成清さんが一着を丸縫いする。
肥後染色さんでの泥染めによる伝統工芸染色もそうだし、縫製者の技術も惜しげもなく注がれたコートです。
ここまでのものは、人生の中でもそうそう出会えるものではないと思います。
お好きな方には、見てもらえると嬉しいです。