amachi. "見えない環境"
今回のコレクションで、amachi.を最も象徴するもの、これを待ってた。
amachi.の10回目のコレクションでの"スペシャルピース"、当店に遂に登場。
Collection 010という、この春夏シーズンの括りのコレクション。
いつもね、amachi.の吉本天地さんが幼少期から体験、考察してきた"自然"へのアプローチを洋服を通して行うんですよ。
今回のコレクションで銘打たれたもの、
"Invisible environment" (インヴィジブル・エンヴァイロンメント)
invisible = 見えない
environment = 環境
そう。
「見えない環境」
ということがテーマに置かれたコレクションです。
この世界は、見えているだけが全てじゃない。
雲の上や、海の中、コンクリートの下だって日常に暮らしていると見えない。
そして、amachi.の今コレクションでは、土の中。
土中には、人間界にも大きく影響を及ぼすことがたくさんある。
土中の水脈や、植物の根。
それらが持つ複雑なシステム。
地上に立つ人間が視覚的に捉えることができなくても、一筋の水の流れの先に存在している「見えない環境」。
その循環へ目を向けたのが今回のCollection 010。
amachi.のデザイナー、吉本 天地さんの言葉を借りると
<土中に存在している水、土、植物の根
それらの密接な関係性が、我々の目にしている地上の自然物以上に環境を左右し
植生や気候を形作っているということを意識してみると、普段目にしている風景の捉え方が一変します>
<それは、具体的な植生の再生や、森林環境の改善にも役立つ視点ですが
同時に、自然の持つ複雑で緩やかなシステムを体感的に理解していくきっかけにもなると考えます>
<こうした"見えない環境"について科学的視点から理解を深める過程は
幼少期、北カリフォルニアで体感していた自然理解
例えば、乾季と雨季の移り変わり
春に日々ニジマスを釣り、泳いでいた大きな川が夏に向け徐々に干上がり
緑色の草原は黄金色に変化していく風景を思い出す事と同義でありました>
<その様な感覚を色彩や素材使い、ディテールワークへ
より抽象化されたコレクションのムード、衣服から広がる空間性へと展開することを試みた>
そして、そのコレクションを最も象徴する"スペシャルピース"が今回の。
amachi.
Suigen Pants
material _ LINEN 100%
color _ NATURAL
size _ 5
これ。
"Suigen Pants"。
「水源」という名の通り、大地に雨が降り注ぎ、それが森林の土中を巡り、豊かな緑、綺麗な水、山の産物、海の産物、そして、人間へも恩恵となる。
"循環"。
全ての生命の源。
"Suigen"
そして、後述しますが、今回の「水源」とは、まさにデザイナーの吉本天地さんが幼少期に身を持って体験した"源"が現れている。
それを洋服として。
"Limited 5 Pieces"と定められた、生産数MAXで僅か5着のコレクションスペシャルピース。
ショートパンツとフルレングスのパンツが合体したSuigen Pants。
生地は、どちらもリネン。
どちらもamachi.オリジナルのもの。
そこにブランドの原点となる、デザイナーによるハンドプロセスのステッチワーク。
まずは、ディテールをお話ししますね。
最初は、ここ。
上のナチュラルカラーのリネン。
これは、経糸にとても太いリネンの糸が二本並べて配置。
つまり、引き揃え。
対して、緯糸には、経糸以上に太いリネン単糸。
それを織り上げた、かなり太幅のヘリンボーン。
引き揃えな分、経糸の存在がかなり強く、まるで土嚢袋かのようなガッチリした強さのある生地。
その反発性、むちゃくちゃな力強さを感じてもらえると思う。
生地の存在があまりにも強い分、ウエストには、ウエストベルトが存在しません。
ベルトループも同じリネンヘリンボーンが配置。
生地が持つパワーがすごいですからね、この生地を折り畳むのも力技ですね。
フロントトップボタン。
ここは、通常だと水牛のホーンボタンを配置するのが通例だと思うけど、amachi.では、厚みのある貝ボタン。裏面です。
このボタンは、真珠面と裏面とでつくってるものだそうで、狙ってつくれないようなシロモノみたい。
どのような見た目のボタンになるか、その自然に近い姿は、amachi.の洋服ととてもマッチングしてる。
フロントは、ファスナー。
天狗付きで、裏にもamachi.ボタンが健在。
そして、そのパワーリネンの下から伸びるのが、平織りのホワイトリネン。
こちらもamachi.オリジナルのもの。
先述の太番手のリネン糸を使った太幅ヘリンボーン生地に対して、こちらは、細いリネンの平織り。
生地を構成する糸が細くなる分、リネン特有の糸のムラがところどころに現れる。
今では、こういう生地はほとんど見なくなりましたね。
昔、まだ本物のアイリッシュリネンがギリギリ存在していた頃や、ヴィンテージリネン系の生地が重宝されていた時には、時々見かけるような生地のニュアンスだけど、今はめっきり見なくなったジャンルの生地。
夏の灼熱の暑さの時や、日差しが強い時期に、太陽の下で着るのがとても似合う生地なんですよ。
でも、こういう生地って原料のスペックが高くないと困難。
だから、amachi.がオリジナルでつくってる生地。
未洗いの状態では、リネンがパキッとしてるタイプなんですけどね、洗うと激変。
縮みもものすごく出るし、未洗いの状態では硬さがあったリネンが、水を通すと一気に、高原料の繊維特性が露わになる。
製品完成前に生地の段階で、既に洗いがかかってるので、もうこれ以上の縮みの心配は不要ですが、洗うことで、更なる飛躍が期待できるタイプのものですよ。
近頃は、レアジャンルのものだと思いますが、着て洗うと、もの凄く柔らかくなり、肌当たりの変貌がストレートに体感できるリネン生地。
ヘリンボーン生地の箇所も、平織りリネン箇所も、裾には、折り返しのステッチが入るのですが、サイドにシームは入りません。
ヘリンボーンのショートパンツの方は、インシームとアウトシームともに、オーバーロックの割り縫い。
それ以外だとかなりボコ付きが出るから。
裾の生地端の処理は、パイピングされてる。
生地厚があるから三つ折りではなく、折り返し処理でのパイピング。
ちゃんとしてる。
結構ね、こういう大物系だと、その見た目の強さを出すことに比重が置かれる分、耐久面や裏の処理が全然ダメダメで心配になっちゃうものも中には存在するのですが、amachi.はとてもきちんとつくってる。
平織りリネン箇所、裾は三つ折り。
こちらは、インサイドシーム、アウトサイドシーム、共に袋縫い仕様です。
このね、パンツのサイドシームのステッチが露出してないっていうのは、結構大きな鍵を握ってると思う。
これがサイドシームがバチバチに露出してたら、全然見た目とパンツが持つムードが変わっちゃうから。
後述するけど、吉本さん自身のハンドプロセスでかなり手が入れられてる分、パンツそのもののシームは、出来る限り取り除かれてる。
そういう洋服づくりの理論もあって、amachi.の洋服は、"神秘性"を孕んだような独特なムードが漂ってる。
だから、他の誰も同じものを生み出せないんですよ。絶対に。
これこそ、まさにオリジナル。
こういうのって、いろんな人が真似してみようとするけど、これはできないね。
不可能です。
完全にamachi.の吉本天地さんのみが生み出せるバランスだから。
まあ、自分で書いておいてなんだけど、ディテールの組み合わせとかを越えた、別次元での話ですね。
ちなみに、このリネン生地は、ほんの僅かに透けるニュアンスを狙ってる。
透け透けではないけど、足の輪郭が見えるかな?くらいの見え方になります。
風も通るし、結構涼しく感じると思いますよ。
バックスタイル。
後ろ姿もとても特徴的。
amachi.のコレクションで、Elevation Pantsという"等高線"を用いて、標高を現したものがあるんですよ。
それを踏襲した仕様。
三角形状にヒップの切り替えが入る。
業界用語で言うと、CB(センターバック)には、ベルトループがないのですが、三角形の頂点とウエスト本体との生地にスペースがあり、そこがベルトループとして機能する。
そして、バックポケットも完備。
まあ、まずしないだろうけど、仮にこのパンツを分解したら、パンツでは通常は見ないような特異形状のパターンが見れると思う。笑
そして、これ。
裏側。
このパンツ、平織りの薄手のリネン生地が全面に配置されてる。
だから、着用時にはかなり気持ち良いですよ。
裏面も見事にほとんどステッチが入らないですね。
己の下半身でふんだんにリネンの風合いを楽しんでってこと。
amachi.の吉本さん自身によるハンドプロセスが施されてるので、ナンバリングが入ります。
ブランドスタートから今に続くナンバーです。
1208
前立ての裏の処理もあまり見たことがない構造ですね。
前立てがリネンの中に消えてるから。
春夏なのに裏地付きパンツ。笑
着ていて暑くはないけど。
いや、真夏に限っては何着ても暑いか。
着てなくても暑いから。
裏のウエスト周辺も細かくつくられてる。
マーベルトのような仕様だったり、前立てにも裏付き。
ウエスト上部にはコバステッチが入りますが、白いリネンの生地とは、中縫いされてる仕様です。
そして、このデザイナーのハンドプロセスによるステッチワーク。
吉本天地さんは、若くして世界的にもとても才能のあるデザイナーですが、その生まれはアメリカのカリフォルニア、エルクバレー。
その地は、自分たち日本人では考えられないような地。
冒頭にあったように、乾季や雨季が存在し、日本では当たり前の電気・ガス・水道がない地で、本当の意味で"自然と共存して"育ったデザイナー。
「水源」 = 全ての生命の源
ではあるけど、それをまさに幼少期に経験してた。
そして、今回のスペシャルピース、"Suigen Pants"を生み出す過程で、自らの生まれまで遡ったそうです。
この"Suigen Pants"とは、ある特定の「水源地」を示している。
それが生まれの地、カリフォルニア。
当時住んでいた山は、日本のようにインフラが一切なく、水の確保は、自分たちで"水源地"を見つけ、独自に採水システムを構築するところから始めないといけなかったそう。
雨季になると延々と雨が振り続ける。
それが山に水を与える。
しかし、乾季に入ると、豊かだった川も、みるみるうちに干上がっていってしまう。
ただ、乾季に入っても、それでも枯れない"水源"というのは、当時の吉本さんたちにとって、すごく神聖で、大切な場所だったそうです。
この"Suigen Pants"は、その当時のデザイナーの体験を物語る。
乾季で全てが干上がってしまい、乾燥し切った風景を表現している、無染色のリネン。
その風景の中から、唯一みずみずしさを生み出す、一筋の水。
"水源"
乾燥した大地から、水が湧き出て、そこに唯一の植物として生える、苔。
透き通った水の流れる様子と、そこに生き生きとした苔が生まれる情景。
生地本体の、無線色で太いリネンの力強いテクスチャーは、乾燥した大地。
そのヘリンボーンの組織に倣って、乾燥地の隙間から湧き出る、水。
そして、水に伴った周囲の苔生す(こけむす)。
水と苔、ステッチワークの入れ方が異なり、それぞれの姿を見事に表現してる。
まるで水が乾燥した大地を流れ落ちるような姿。
誰が見ても圧倒的な迫力のパンツ。
やはりコレクションを最も象徴してるのもあるし、amachi.の吉本さんがブランドとして続けてきた、ステッチワークはもちろん、幼少期から経験してきた自然。
それを表現するアプローチ。
吉本さん自身も言ってましたが、これほどまでにブランドのハンドワークが入ったものは、続けてきたものでもあるけど、原点回帰とも言えると。
このパンツは、そのパワーから穿くとそれだけでamachi.の特別な世界へ連れて行ってくれると思います。
着てる写真は撮ってないけど、形は少しボリュームがありますね。
レングスは、大体ノークッションのジャストもしくは、気持ち短めくらいかな。人によります。
プライスは高額だけど、このパンツはとにかく穿いて、夏場は汗かいたら、臆さず洗って。
リネンがデロデロになって、ステッチの飛び出した糸が絡み合って、もっとデロンデロンにして、それでやっとスタートラインに立てるかも。
服装的にはね、これからトップスがどんどん軽くなる分、スタイルとしてはこれがあれば完結できる。
お好きな方は見てみてください。