こんにちは。
CASANOVA&COの野口です。
本日も、今週末からのこちらのイベントに関して。

daisuke tanabe
season 04 preorder
2026.04.25 (SAT) - 2026.04.27 (MON)
2024年の秋冬シーズンにデビューし、今回のseason 04が5回目のコレクションとなるdaisuke tanabe。
田邉さんは、音楽や小説、映画、写真、建築物などなど、洋服以外のジャンルの”作品”からインスピレーションを受けて、社会の世相を反映したコレクションを作成します。
僕が思うに、daisuke tanabeのコレクションはデビューから一貫して退廃的でダークなムードの世界観でした。
ポストアポカリプスという言葉で表現されるような世紀末的な光景に基づく、モノトーンな色調のコレクション。
次いで、その世界の終わりに新たな生命が宿ることを連想させるグリーンをアクセントとしたコレクション。
そして前回の26SSコレクション”x”では、再生し高度化した現代社会においても続く戦争を背景に、社会全体の停滞感や閉塞感を描き出しました。
そして今回、それに続くコレクションとして、"atom"。
本日は、僕なりのseason 04 "atom"のオーバービューをご紹介します。
シーズンルックを交えてご紹介しますので、そちらもお楽しみいただけましたらと思います。

今回のコレクション”atom”のはじまりは、山下達郎氏の「アトムの子」だと田邉さんは言います。
1991年に発表されたアルバム「ARTISAN」に収録されている「アトムの子」は、1889年に逝去した手塚治虫氏へのトリビュートであり、山下氏は手塚氏の「アトム」の意思を継承したいという思いがあったとされています。
その手塚治虫氏が「鉄腕アトム」に託したのは、未来への希望。
山下達郎氏は「アトムの子」において、自らの演奏や打ち込みによる疾走感あふれるビートでそれらを表現しました。
田邉さんは、不意に「アトムの子」を耳にした時のことを、
自ずから抱いていたぼんやりとした危機感や不安を追い越し、先に体温だけを立ち上げてしまうプリミティブな力。
それは「自己肯定」という別の選択が可能であることを理屈ではなく身体が先に知ってしまう、心地よいバグのような経験でした。
と語っています。
僕は子供の頃、父親が運転する車に乗ると基本的にサザンオールスターズか山下達郎が流れていて、日曜日には14時になるとそれがラジオに切り替わり「山下達郎のサンデーソングブック」が始まるという原体験があるので、「アトムの子」を聞くと反射的に”エモい”の感情になってしまうのですが、それを抜きにしても「アトムの子」の熱っぽさは分かる気がします。
田邉さんはこの「アトムの子」を通した”心地よいバグ”を転換点に、停滞感漂う社会全体への問題提起を試みた昨シーズンの”x”から、そのような社会にありながらも個人単位で希望を見失わずに生きてゆくことの誉を体現するかのような"atom"へと視点を移しました。
”atom”は、原子。
それは、これ以上分割することのできない”個”を象徴する言葉。
そして、希望を託された”アトム”のことでもある。
田邉さんは、
希望とは、世界が明るくなることを保証する言葉ではなく、今ここにある自分自身を肯定するための、静かな選択 -
と定義しました。
各個人の、静かで、内なる強い選択を支えるものとして、season 04の”atom”は制作されました。

不可分である”個”に向き合う行為、つまり「自分とは何ぞや」という問いを立て自らの選択によって希望が守られていくとした実存主義的な思想背景は、映画「ブレードランナー 2049」から影響を受けたと田邉さんは語ります。
ということで、僕も見ましたよ、「ブレードランナー 2049」。
出張帰りの新幹線の中で。
視聴環境と僕の肉体的コンディションのせいで、全然わからなかった。笑
途中、PCで「ブレードランナー 2049」見ながら、スマホでインスタ見てたりしたし。
僕はまだ”不要な関心”の世界の住人なのでしょう。
なので薄っぺらい話しかできないと思いますが、堪忍してください。
「ブレードランナー 2049」の前作にあたる「ブレードランナー」はちゃんと見たことがあるのですが、共通するテーマとして、”自分とは何者なのか”という問いがあるように感じます。
超ざっくり言えば、「荒廃し汚染された世界の中で、感情を失いつつある天然の人間と、自我が芽生え始める人造の人間が対立しながら”自分とは何者なのか”を模索し生きてゆく」みたいなのがブレードランナーの物語。
この実存主義、つまり”自分の本質を自分で切り開く”行為を支える"atom"というコレクションであり、
「ブレードランナー 2049」の衣装デザイナーであるRenée April氏が”荒廃した世界を自我を持って生き抜くためのユニフォーム”として衣装を設計した思想をseason 04のdaisuke tanabeでも拡張させてゆきました。

イギリスのD. Lewis(現在のLewis Leathers)は、第二次世界大戦時に航空用装備である「Aviakit」を開発しました。
当時のロイヤルエアフォース、つまりイギリス空軍のパイロットたちは、過酷な戦争において自分自身の生存率を高めるためにこの”Aviakit”を私費で購入していたそうです。
つまり、”自分自身が属する集団を表すもの”だった衣服の歴史が、”生き延びるための防護殻”というシェルターとしての役割にまで拡張された瞬間だと田邉さんは語ります。
これらのリサーチを基にして、"atom"においては「ブレードランナー 2049」の主人公Kの衣装がそうであったように、そしてかつてのロイヤルエアフォースがそうであったように、生き抜くための機能を意識してデザインを行なったそうです。


しかしそれと同時に、田邉さんが"atom"において目指したのは単なる生存のための”機械”としての洋服ではありませんでした。
Le Corbusierが「住宅は住むための機械である」としたのに対し、Eileen Grayは「精神の避難所」としてのデザインであるべきだとCorbusierを非難したのだそう。
後にCorbusierはEileen Gray設計の住宅が心地良すぎて入り浸るようになり、嫉妬心から勝手に壁画を描いて壁を汚したというメンヘラエピソード(?)があるほど対立関係にある2人の思想ですが、田邉さんはそのどちらもが"atom"には必要だと考えたのだと思います。

”atom”のカラーパレットは、Eileen Grayのラグデザインから影響を受けたといいます。
彼女の得意とする幾何学的なラインと、温かみのある色彩や手織りの感触のバランス。
田邉さんは対極に感じられるこのバランスを、”混沌を整理しようとする知性”と”人が生きるための根源的な情動”と捉え直し、自身のコレクションに反映させました。
特にオリジナルで開発した生地は、その象徴です。

展示会の時に田邉さんはこんなことを言っていました。
「自分が今回影響を受けた作品たちを知っている人は世界中にたくさんいると思うんですけど、”それらを同じタイミングで並行して摂取している”という条件が加わると僕だけやと思うんです。」
と。
これは僕の中でかなりシビれた言葉でした。
なぜならば、本当はきっと世界中の人がそうであるはずだから。
そのことに気が付いていないだけで。
最近よく聞く音楽、こないだ見た映画、直近読んだ小説、前の休みの日は何をしたのか。
それらを全て横並びにした時、僕と全てが一致する人はきっと世界中に誰もいないでしょう。
皆さんにとっても、それは同じ。
その、”自分の選択に基づく自分だけの環境”が、自分自身を形成している。
田邉さんはそれを分かっているからこそ、さまざまな作品からの影響を誰よりも丁寧に受けて、ものづくりをしている。
でも、自分にしか無い環境が与えられているのは”選ばれた人”にだけではない。
自分の出自や生活を丁寧に紐解いてみれば、きっと自分にしかない環境があることに気が付く。
田邉さんの場合は、とんでもない努力や経験と、えげつない才能によってそれらを昇華したコレクションをつくっているけれど、誰にでも必ずその環境、つまり”個”があるのではないでしょうか。
そしてdaisuke tanabeは、その”個”を肯定するための希望を象徴するコレクションとして、実存主義に基づく”atom”を制作した。

山下達郎氏が「アトムの子」を制作するときに「鉄腕アトム」を読み返したこと、
僕が今日のブログを書きながら、父の車の中で山下達郎氏の「アトムの子」が流れていたことを思い出したこと、
これらは決して横並びにすることはできませんが、幼い頃に触れて”影響を受けた”という事実を自分自身で理解してるから、読み返したり思い出したりしたのだと思います。
そして今回の僕にとっては、”atom”というコレクションに導かれて、そうなった。
皆様にとっても、”atom”が自身の実存を切り開くキッカケとなり、その行為へのエールとなることを楽しみにしています。

最後に、今回のプレオーダーについて、少しだけご案内。
・今回のイベントは26AWコレクションの先行受注会となります。
・受注いただきました商品の納品時期は8月〜10月となります。(受注商品によって納品時期は異なります。詳しくはスタッフにお尋ねください。)
・オーダーいただける場合には、前金として商品代金の50%分のお支払いをお願いいたします。
以上です。
コレクションテーマのことをこれだけお話ししておいて、肝心の洋服のことに触れておりませんが、渾身の商品サンプル達は今、太平洋上空を飛んで日本に戻ってきていると思います。笑
予定通りに到着すれば、金曜日に店頭にサンプルが到着する予定です。
ハイパータイトスケジュールなので流石に心配ですが、田邉さんがなんとかしてくれると思うので僕は金曜日まではのんびり待っておきます。
土曜日から、田邉さんと一緒に皆様のご来店を心よりお待ちしております。